放送開始から4週目に入ったNHK連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』(月~土曜午前8時)の人気が上昇の一途を辿っている。

光るバイプレーヤーたちの演技

 上白石萌音(23)扮するヒロイン・橘安子とSixTONESの松村北斗(26)が演じる雉真稔との恋は実らないと思われていたものの、大逆転でゴールイン。だが、稔は学徒出陣で戦地に向かってしまった。

 物語はジェットコースターのような猛スピードで進む。一方で分かりやすく、見どころも満載。これが観る側を引き付けて離さない大きな理由になっている。

 バイプレーヤーたちの確かな演技も魅力だ。まず序盤で視聴者を最も泣かせたであろう雉真千吉を演じているのが段田安則(64)。

 千吉は雉真繊維の社長で当初は跡取り息子の稔と安子との仲を引き裂こうとするが、稔の出征を前に一転、2人の結婚を許す。生きて帰れるかどうか分からない稔を、ひとときでも幸せにしてやろうと考えた。

 京都市生まれの段田は高校時代から演劇に熱中。地元の立命館大に進んだものの、早く演劇に専念したいと考えて中退し、上京する。

 1981年に野田秀樹氏(65)の主宰する劇団「夢の遊眠社」に入団。たちまち看板役者の1人となった。同劇団は軽快なセリフと役者の躍動感に満ちた演技が特徴で、段田も舞台を走り回っていた。

 1991年の劇団解散後も演劇を続け、2007年には大竹しのぶ(64)らと共演した舞台『ヴァージニア・ウルフなんかこわくない?』で役者たちの憧れである読売演劇大賞の大賞と最優秀男優賞を獲る。演劇人のテッペンに立った。

 段田の演技にゾッコンだった故・森光子さんからは直接、共演を依頼されていた。一方でムロツヨシ(45)が役者になるきっかけもつくった。

 1995年、デビュー前のムロが、ファンである深津絵里(48)の出演舞台『陽だまりの樹』を観に行くと、段田も出ていた。ムロはその演技に圧倒され、「自分も演じる側に行きたい」と強く願うようになる。

 安子の父で和菓子店「たちばな」の2代目大將の橘金太役は甲本雅裕(56)。戦争は乗り越えたものの、身体を壊し、命果てた。

 甲本の3学年上の実兄は甲本ヒロト(58)。1995年まで10年間活動した伝説的ロックバンド「ザ・ブルーハーツ」の元ボーカルだ。現在も「ブギ連」などのボーカルを務めている。

 甲本兄弟はこの朝ドラの舞台と同じ岡山市の出身。2人兄弟で、仲がよく、甲本はラジオ番組などで「(子どものころは)裏山でよく一緒に遊んだ」と振り返っている。

 ただし、芸能人と呼ばれるようになった経緯はまったく異なる。

 ヒロトが早くからミュージシャン志望で高校時代からバンド活動をしていたのに対し、甲本は京都産業大を出てアパレル会社でサラリーマンをしていた。

 甲本の人生が一変したのは1989年。三谷幸喜氏(60)が主宰する劇団「東京サンシャインボーイズ」の荷物運びを手伝ったからだ。三谷氏が甲本の資質を見抜き、「芝居に出てみないか」と誘った。甲本はこの言葉に従い、約1年半勤めた会社を辞め、同劇団に入った。

 朝ドラは『こころ』(2003年度前期)などに次いで3作目。大河ドラマも『元禄繚乱』(1999年)など3作に出演しており、NHKから贔屓にされている正統派だが、保守的ではなく、ブッ飛んだ作品にも出る。

 極めつけが映画『島田陽子に逢いたい』(2010年)。本人役で登場する島田陽子に憧れる末期ガンの男に扮し、島田と余生を過ごす。まるで素の2人の日常を追っているような怪作だった。

 観客側には「甲本は本当に島田に惚れているのではないか?」と思わせた。うまいからだ。