遺骨を土中に埋め、墓標の代わりに樹木を植える「樹木葬」。今年行われた調査によると、樹木葬を選ぶ人は2018年から2022年の4年間で約16%増え、シェア4割に。一般墓の平均購入額は約165万円で、樹木葬は約70万円とおよそ半分。だが、選ばれる理由は安さではない。そこには故人や遺族の温かな思いがあった―。
お墓の主流が一般墓から樹木葬に
現代のお墓事情に大転換が起きている。お墓に関するポータルサイト『いいお墓』の調べによると、2010年には約9割が「一般墓」を購入していた。
ところが2019年には「樹木葬」を選ぶ人が41・5%となり、初めて一般墓を上回る。その後も一般墓の新規購入割合は25%程度にとどまる一方、樹木葬は4割以上のシェアを保ち続けており、この10年ほどでお墓の主流は一般墓から樹木葬に移り変わったことがわかる。
「樹木葬は1999年に初めて登場したといわれる、比較的新しい種類のお墓です。樹木葬の新規開園数は年々増加しており、お墓の選択肢のひとつとしてこの10年で一気に定着したといえますね」
そう教えてくれたのは、『いいお墓』を運営する鎌倉新書の広報・古屋真音さん。そもそも一般墓と樹木葬にはどんな違いがあるのだろうか。
「お墓と聞くと『○○家之墓』などと彫刻された墓石を想像する方が多いと思いますが、一般墓というのはまさにそういったイメージのものを指します。家族や一族などの家単位で継承していく伝統的なお墓で、永代にわたって管理することを前提としているため、一度購入すれば子ども世代や孫世代にも残すことができるのがメリットです。
一方、樹木葬は墓石の代わりに樹木を目印にしたお墓。霊園やお寺によってバリエーションがありますが、一般墓に比べるとより自然志向で明るいイメージのお墓として人気ですね」(古屋さん、以下同)
ひと口に樹木葬といってもその実態はさまざまだ。大きく分けると「庭園・公園型」と「里山型」の2種類がある。
「庭園・公園型」とは、寺院の境内墓地や霊園の一角を緑豊かに整備し、シンボルツリーを植えたり、ガーデニング風に花を植えたりして管理された墓域に遺骨を埋葬する。
埼玉県所沢市の『やすらぎの花の里 所沢西武霊園』も庭園型の樹木葬を運営する霊園のひとつだ。バラをシンボルフラワーとした敷地内には、色とりどりの花や緑が植えられ、まるで庭園のような雰囲気の中で故人を偲ぶことができると、人気を博している。
一方で「里山型」は、寺院や霊園が管理する広大な山林などをそのまま墓域として、その一角に遺骨を埋葬する。すでにある樹木の下や、墓標として新たに植樹をした花木の下に遺骨を埋めるなど、より自然に近いお墓の在り方として注目を集め、墓地の管理がそのまま自然保全にもつながるといった側面も。
日本で初めて樹木葬を始めたといわれる岩手県一関市の『知勝院』も、この数少ない里山タイプの代表例だ。埋葬場所には小さな木札が立てられ、遺族はそれを目印にして山々の静寂の中で故人に手を合わせることができる。「自然に還る」といったイメージがまさに当てはまる一例だ。
「自然豊かなところで眠りたいという自然回帰への憧れも樹木葬人気の理由のひとつのようです。特に庭園・公園型の樹木葬は、都市部でも緑豊かな環境の中で故人を偲ぶことができる一方、ご遺族のお墓の維持管理にかける負担も少ないため、より時代のニーズを捉えているといえるのかもしれません」
社会背景の変化も、樹木葬人気の要因のひとつだ。特に生涯未婚率の高まりや核家族化が進行する日本において「誰がお墓を管理するか」といった問題は深刻だ。その点、樹木葬の多くは寺院や霊園が埋葬地の管理をしてくれる永代供養型のお墓であるため、墓石の管理をする親族がいなくても選びやすいというメリットがある。
また、樹木葬は墓石の費用がかからないため、一般墓に比べるとコストを安く抑えられることが多い。『いいお墓』のデータによると、一般墓の平均購入額は165万円ほどである一方、樹木葬は70万円程度とほぼ半分以下で、価格面でも樹木葬は選ばれやすいようだ。
「自然に還るというコンセプトがある樹木葬では、故人の宗旨宗派を問わないという霊園が多い点もメリットのひとつです。もちろん霊園によっては法要などをお寺の宗派に沿って行うといった場合もあるため、事前によく確認しておくと安心ですね」