「もう痛みと戦わなくていいんだって。よかったという気持ちが強いんですけど、今まで見てきたお父さんの姿が見られなくなるのは悲しくもありますね」
思い出すように、ひとつひとつの言葉を噛みしめながら話すのは、シンガー・ソングライターの霧愛(むぅあ)さん(22)。本名・武藤愛莉。父は、日本を代表するトッププロレスラー・武藤敬司さん(60)だ。
膝に人工関節を入れる手術
2023年2月21日、武藤さんは38年に及ぶプロレスラー人生に終止符を打つため、東京ドームのメインイベントのリングの上に立つ。引退試合が東京ドームで行われるのは、故・アントニオ猪木さんに次ぐ快挙。いかに、プロレスラー・武藤敬司が大きな存在だったか、プロレスファンでなくてもうかがい知れるだろう。
肉体と肉体をぶつけ合うプロレスは、激しく身体を消耗する。ファンに夢を与えれば与えるほど、レスラーはケガという代償を背負うことになる。武藤さんも例に漏れず、「このままでは歩けなくなる」という医師の助言に従い、2018年には膝に人工関節を入れる手術を行ったほど。
だが、その姿をそばで見続けてきた霧愛さんは、「膝がよくなると、今度は他の身体の箇所……股関節や腰に痛みが生じるようになって。イスから立ち上がるときも、『よし! 行ける。行ける』って自分を鼓舞しながら立つほどでした」と証言する。
文字どおりの満身創痍。冒頭の霧愛さんの言葉は、家族だからこそどんな言葉よりも重くて深い。
「小さなころから、お父さんはプロレスラーなんだってわかっていました。プロレスごっこをしたり、試合を見たり、子どものころからプロレスが好きでした」(霧愛さん、以下同)
物心がついたときからお父さんのファン。霧愛さん自身、筋金入りの武藤ファンだと笑う。
「プロレスの話もよくします。試合が終わると、『誰の試合が良かったか?』とか話したりします。ただ、それ以上に自分がうまく決めた技のシーンは、何度も繰り返し見せてきますけど(笑)」