6月1日、長野県高山村にある『藤井荘』で将棋の第81期名人戦が行われた。
「挑戦者の藤井聡太さんが渡辺明さんを破り、見事『名人』のタイトルを奪取しました。20歳10か月で名人となったのは、史上最年少記録。現在、タイトルは全8つですが、7つだった1996年に羽生善治さんが7冠制覇して以来、2人目の快挙です」(将棋ライター)
新名人となった藤井は、
「それにふさわしい将棋を指せるよう、今後一層頑張らなければいけないなという気持ちが強いです」
と、思いを新たにしていた。
この偉業について、『週刊将棋』の元編集長で大阪商業大学公共学部助教の古作登さんに聞いた。
「プロ棋士は現在170人ほどいます。そのプロ棋士たちが切磋琢磨している中で、タイトルホルダーになれるのは、1つのタイトルで1人だけです。それを7つ獲得するのは天文学的な確率なんです。抜きん出た実力が必要なだけでなく、そのうえで運も必要ですから」(古作さん、以下同)
藤井の功績は“7冠”だけではないという。
「藤井さんは、プロデビュー以来の通算勝率が8割3分を超えています。デビューから6年以上たち、この勝率を保った棋士は、今まで将棋の歴史上、存在しなかったんです。野球で例えるならば、6年間ずっと4割打ち続けるのと同じこと。“4割打った人”自体、日本のプロ野球にはいませんし、それを長年継続できるバッターはなおさらいないですよね。それくらい“規格外”なんです」
当然、高い勝率を維持する難易度は年々上がっている。
「今はタイトル戦ばかりなので、強い相手ばかりです。その中でこれだけ高い勝率を維持するのは“普通の人間では無理だろう”といわれていました。将棋の世界で、藤井さんは人間では越えられないような壁をすべて越えています。今までの常識を覆してきた人だといえるでしょう」
チヤホヤするのがいちばんマイナス
残るタイトルは『王座』で、一部では今秋に8冠制覇の可能性を報じている。
「藤井さん自身は“間違いなく勝てる”というような気持ちは、1%も持っていないと思います。もちろん、可能性はかなり高いと思いますが、プロ棋士はそれぞれ、文字どおり命を削って戦っている人ばかりです。また、藤井さんの通算勝率の8割3分が奇跡的な数字だといっても、1割7分は負けているということ。相手も一流のプレーヤーですから“絶対”ということはないと思います」
5歳から小学4年まで藤井を指導していた『ふみもと将棋教室』の文本力雄さんは、厳しくも温かいエールを送る。
「勝負師には、チヤホヤするのがいちばんマイナスになるので、厳しく応援してやってほしいと思います。
聡太はまだまだ修行途上の身。今は、とにかく修行に明け暮れる時期で、そういう年齢だと思いますね。自立、自活して全タイトルを取れと言いたいです」