目次
Page 1
ー 「縁起でもない!」と怒られて
Page 2
ー 政治家は“なる”よりも見ていたい
Page 3
ー 母の介護の日常を包み隠さず伝えたい

 

「『踊る!さんま御殿!!』(日本テレビ系)に初出演したときは、緊張から前日は一睡もできませんでした。新年度から環境が変化したことで免疫力が落ちていたのか、奥歯が炎症を起こし、放送中は口の中が血だらけ(笑)。不器用なので、入念に準備をしないと気が済まない性分です」

 そう笑って話すのは、政治ジャーナリストの岩田明子さん。元NHK解説主幹で、故・安倍晋三元首相に“最も食い込んだ記者”として知られるだけに、「クール」な印象を抱く人も多いはず。ところが、実際に話してみると、社交的、かつあけすけな人となりに驚く。この話しやすさに、安倍元首相も胸襟を開いたのかもしれない。

「講演などで初めて対面でお会いする方からは『もっと怖い人かと思っていました』、『もっと大柄な人かと思っていました』とお約束のように言われるんです(笑)。“バリバリのキャリアウーマンで休日は海外旅行をしているような悠々自適な人”のように思われがちですけど、実態はそうしたイメージとは程遠く、母の介護に奔走し、介護グッズを担いで帰るといった生活です」(岩田さん、以下同)

「縁起でもない!」と怒られて

 安倍元首相が凶弾に倒れた2022年7月、岩田さんは26年間勤めたNHKを、早期退職制度を利用して退局した。

「第1次安倍内閣発足前、拉致問題でスポットライトを浴びた安倍さんは、ポスト小泉の筆頭として注目を集め、プリンスのような雰囲気がありました。

 若くして総理の座を手にした安倍さんに、私は『安倍総理は、苦労をしてこそ光る総理なのではないか』と口にしてしまい、『縁起でもないことを!』と本人に怒られたことがあります(笑)。

 でも、結局、第1次内閣退陣後の雌伏の5年間で、安倍さんは別人のように変わりました。理論だけではない、人の情やご縁、宿命など、“一人ひとりの人間”を意識して政治と向き合うようになったのだと思います」

 岩田さんと安倍元首相の付き合いは、'02年に岩田さんが、当時官房副長官だった安倍元首相の番記者の担当になったときからだ。

「政治家は多くの有権者と接する仕事ですので、ある意味、人を見抜くことに長けているんですね。『この人にだったら大事なことを話してもいい。この人の意見だったら聞いてみたい』、そう思われる人間にならないと食い込めない。

 自分が政治家と渡り合うためには、バックグラウンドを広げていく必要がありました。同業の記者たちとつるんでいるだけではなく、自分の人脈や知識を貪欲に広げていかなければ、生き残れない世界だと思いました」

 芸能界とも交流を持つようになった岩田さんは、安倍元首相と故・津川雅彦さんを引き合わせた仲介人でもあったという。

「安倍さんは、第1次安倍内閣の退陣後。津川さんは、大親友だった緒形拳さんを亡くされた後でした。失意のどん底にあったときに、新しい友に巡り合えたということで、お二方ともとても喜んでいました。安倍さんは映画監督という職業に憧れていたくらいですから、津川さんと映画談議に花を咲かせていましたね」