ここ数年、ノーベル文学賞の最有力候補といわれ続けながら、今回も受賞とはいかなかった村上春樹氏。
「イギリス政府公認の賭けを行うブックメーカーによる今年のノーベル文学賞の予想では、2番人気でした。ケニア出身の作家、アメリカの作家の名前も上位に挙がっていましたが、結局、1番人気だったベラルーシの女性作家が受賞しました」(全国紙記者)
そもそも“次のノーベル賞作家”として注目され始めたのは、今から9年前のこと。
「チェコの『フランツ・カフカ賞』に選ばれたんです。過去にこの賞を受けた2人の作家が2年続けてノーベル文学賞も受賞したことから、村上が'06年のノーベル文学賞の候補なのではないかと話題になりました」(文芸記者)
これ以外にも、アイルランドやスペインやドイツなどの国際的な文学賞での受賞歴があり、その作品は数多くの言語に翻訳されて世界中で親しまれている。
「ハルキストといわれる村上春樹の熱狂的なファンは海外にもいます。海外でもトークショーやサイン会が行われると、若いハルキストを中心に行列ができています」(ワイドショースタッフ)
ただし、日本国内でも毎年盛り上がってきた理由は、それだけではないようだ。
「文芸出版社と書店が受賞による“売り上げの起爆剤”になることを期待しているからです。あと、日本のハルキストたちは、ノーベル文学賞をとった日本人として、川端康成と大江健三郎に並んでほしいと一方的に願っているのです」(前出・文芸記者)
しかし、村上作品はノーベル賞向きではないという見方もある。
「純粋な文学作品というよりも、虐げられたマイノリティーをジャーナリスティックに描くような作品で、政治的メッセージが強い作家が選ばれる可能性が高いんです」(『いま、村上春樹を読むこと』の著者・土居豊氏)
また、『病む女はなぜ村上春樹を読むのか』の著者・小谷野敦氏は、文壇内のこんな事情を明かす。
「村上春樹は日本ペンクラブの会員ではないこと。ペンクラブにはノーベル賞への推薦権があり、川端も大江も会員でした」
とはいえ、ライターの永江朗氏はこう語る。
「非常にわかりやすい言葉で、人間の存在や社会の根源を問うような深い内容を表現。哲学的だけど、物語の筋だけを楽しむこともでき、人類普遍のテーマを書いているので、世界中の人に読まれる文学」
その国際性を高く評価する。土居氏も「今の日本人作家では、村上春樹ぐらいしか受賞できる見込みはなさそう」と指摘。そういった現状が、この時期の村上フィーバー(?)を生むわけのようだ。
そんな中、意外と知られていないのが、受賞決定までのシステムだ。
「ノーベル文学賞の選考経過や評価基準は非公表です。18人のスウェーデン・アカデミーの会員が最終的に絞り込まれた5人の作家に投票するのですが、発表されるのは受賞者ただひとり。選考過程が公開されるのは50年後で、これまで候補と見なされてきた日本の作家の名前はたくさんありますが、三島由紀夫ですら候補には入っていなかったとも言われています。候補というのはあくまでも憶測で、村上が入っているかもわからない」(前出・全国紙記者)
そんな賞について毎年騒がれることを村上氏本人はどう感じているのか。小谷野氏は「4~5年前なら本人もスウェーデンの授賞式へ行く気満々だったと思いますよ」と言うが、今年、村上氏は著書の中でこう語っている。
《正直なところ、わりに迷惑です。だって正式な最終候補になっているわけじゃなくて、ただ民間のブックメーカーが賭け率を決めているだけですからね。競馬じゃあるまいし》