20151013_atsugi_graf

 昨年5月30日、神奈川県厚木市のアパートで、齋藤幸裕被告のひとり息子である理玖くん(死亡推定当時5歳)の白骨化した遺体が見つかった事件。

 理玖くんが3歳のときに母親(33)は家出し、齋藤被告が理玖くんの面倒をみていた。しかし、齋藤被告は理玖くんが死んだことを隠して月額約6万円のアパートの賃貸契約を継続。遺体は7年以上放置された。

 9月24日、横浜地裁でその裁判員裁判が開かれ、元トラック運転手の齋藤被告(37)が本人尋問でこう語った。

「ボクの認識ではDVでなくケンカ」

 逮捕当時はボサボサだった髪を丸刈りにし、黒地に薄いストライプ柄のスーツに白いYシャツと紺色のネクタイ姿。きちっとした格好だ。

「(妻が出て行ったころ、性交渉は)なかったです。少なくとも半年から1年ぐらいは。(性欲処理は)エロ本は見ないで、ひとりで妄想で(自慰を)やっていました。(妻とは)ケンカが絶えなかったから」

 と語るなど、性生活の独白はあまりに奇異である。ほかにもDV疑惑を否定。被告の妻が同居当時、児童相談所に夫のDVを相談したことがあったためか、法廷で反論した。

「ボクの認識では、DVではなくケンカです。取っ組み合いでお互い、おもにグーで殴り合っていました。ボクは手加減したけれど、妻は手加減なし。リモコンとか周りにあるものも投げてきました」

 さらに、奇異な独白は続いた。逮捕当時に同棲していた女性とは、「キャバクラで知り合いました。それは理玖が死んだあとでした」ときっぱり言った。新しい女性にのめり込んで理玖くんの世話がおろそかになったわけではない、と訴えたいのだろう。

 一方、家出したあとの妻について「風俗嬢をやって生活していたと刑事さんから聞かされて初めて知った」などと余計な話を披露した。裁判員10人中、女性は7人。

 無実を訴えたいにしても、妻のイメージダウンをはかる魂胆が見え見えで、裁判員席の空気は固まっていた。的外れで不謹慎な独白になっていることに気づいていないようだった。

 法廷で示された証拠写真は残酷な事実を物語った。裁判官と裁判員、検察側、被告を含む弁護側、証言台に約20インチの小型モニターがある。傍聴席からは見えない。17日の公判では、遺体の第一発見者である神奈川県警厚木署の警察官が証言台に立った。

「家中すべてが空のペットボトルや、空のおにぎり袋などゴミだらけで、遺体があった和室に入る引き戸も、ゴミで全部は開かなかったぐらい。電気が止まった暗くてゴミだらけの部屋の毛布の下に、遺体があった」(警察官)

 裁判員らは、部屋の中を映しているとみられる小型モニターに見入った。被告は口を半開きにして、他人事のような視線を落としていた。

 ゴミは100センチ×90センチの大きなゴミ袋に詰めて96袋分あったという。18日の公判では、餓死に詳しい医師が検察側証人で登場。

「遺体の特徴は、『羸痩』といってガリガリにやせて骨と皮だけの状態である。それと『拘縮』といって、ひじ、ひざ、手首、手足の指の関節が固まって反り返っている」と指摘した。

 小型モニターを見つめていた男性裁判員は顔をしかめ、若い女性裁判員は目を赤くした。レントゲン写真に詳しいという別の医師は「手足など全体が黒っぽい。つまり、骨の厚みが通常の半分程度しかない。明らかに栄養不良状態。最後は運動能力も低下していたはず」と証言した。

 しかし、齋藤被告は妻が家出したあと“シングルファーザー”として奮闘したことや反省していることを訴えた。

「エロ本をちぎって紙吹雪にしてまいたら、理玖が喜んだので、ときどきするようになりました。息子を暗いゴミの中で長い間、放置してしまい、とてもかわいそうなことをしました。弔うべきだったと深く反省しています。息子はあのアパートの部屋で今でも私が帰るのを待っている。パパの帰りをずっと待っている」

 理玖くんが亡くなったことを隠し、勤務先から家族手当など計約41万円をだまし取った詐欺容疑については認めている。裁判は続く。

〈フリーライター山嵜信明と本誌取材班〉