漫画やアニメのキャラクターを描いた“キャラ弁”やグッズを作って、ホームパーティーを開いたとする。それだけなら個人的な楽しみの範囲。だが、お金をとってグッズを売ったら、権利者の訴えがなくても罪に問われるかもしれない。そんな恐れがTPPによって生じている。
「他人の子どもが描いた絵を無断使用してTシャツをデザインした場合も権利侵害になります。ただ、ホームパーティーなどであれば、私的使用として扱われる可能性があります」
そう話すのは著作権問題に取り組む山田太郎参議院議員(日本を元気にする会)。TPP協定の合意内容によると、元作品を無断複製したものを販売すると非親告罪になるため、訴えがなくても起訴されるからだ。
『親告罪』とは、権利を侵害された当人が訴えること(親告すること)で検察が起訴できること。つまり、権利者が訴えなければ、刑事裁判にならない。一方、『非親告罪』の場合は、侵害された当人が訴えなくても検察が起訴できる。
親告罪でも非親告罪でも警察は捜査できる。ただし、限られた範囲で、私的使用の目的で絵などの著作物を複製した場合、例外として著作権侵害にはならない。
人気アニメ『妖怪ウォッチ』のキャラクターグッズの偽物を製造・販売したとして、東京の会社役員ら3人が警視庁に著作権法違反の疑いで逮捕された。直接の容疑は、'14年10月から'15年2月まで、著作権者の許可なくゲームセンターの運営会社ら4社に偽物のキーホルダーなど45点を7000円で販売した疑いだ。
こうした場合、被害届が出されれば現行でも起訴され、刑事裁判になる。TPP妥結後はこのケースも原則、非親告罪になる。
「他人の子どもが描いた作品などをネットや店舗で販売すると、私的利用を超えると判断されることがあります。また、キャラクターの入ったパンフレットを作って街で配布することや、雑誌のコピーを配布すること、キャラクターの絵を描いてネットにあげることが含まれるのではないでしょうか」(山田議員)
最も心配になる点は元作品の複製の“海賊版”として扱われるか、元作品をヒントにしたパロディーとされるかだ。文化庁の文化審議会著作権分科会では「非親告罪の対象を“原作のまま”“複製”することに限定するべきだ」との意見や、「TPPの協定書にある“商業的規模”かどうかの線引きが難しい」と懸念が出された。
「(元作品に手を加えたり、ヒントを得たりする)二次創作した同人誌を買ったからといって、元作品を買わないということにはならない。事実上、二次創作は親告罪になったのではないでしょうか」(山田議員)
二次創作は親告罪、無断複製した海賊版は非親告罪といった棲み分けができたのではないかとみている。ただ、「商業的規模をどのように法的に定めるのかで変わりますが、現段階はグレーゾーンが多い」と山田議員。どこまでがよく、どこまでが許されないか、その国の文化で決まると指摘。
「文化審議会で二次創作を非親告罪化からはずそうという流れになったのも世論とのバランスを見ているからではないでしょうか」
一方、表現の自由や著作権問題などに取り組む山口貴士弁護士は「まともな合意内容」と言うが、著作権法改正案が出ていないため「現段階ではなんとも言えない」と慎重だ。
商業的規模が数や地域の概念かといえば、必ずしもそうではないのではないか、とも指摘。
「商業的規模や“原著作物等の収益性に大きな影響を与えない場合”がどの程度の部数や利益を想定しているのかはっきりしません。(コミケのような)即売会で売るのは親告罪でも、同人ショップなどで販売するのは非親告罪ということもありうるかもしれません」
今後、改正案が審議されるが、元作品の市場を侵さない限り、二次創作は認められる方向のようだ。日本のアニメや漫画、ゲームは二次創作も含めて“作品”である。それらが一律に規制されないことを望む。
取材・文/渋井哲也(ジャーナリスト)