お笑い芸人が自身が出演する舞台のチケットを、自身で売り歩く「手売り」が盛んらしい。売れない若手芸人たちが、ただ待つだけじゃ売れないチケットを自分たちで売ることはあったが、最近では知名度のある人気芸人が、あえて手売りすることも。
現在、福岡で行われる独演会のチケットを手売り中のキングコング・西野亮廣さんに話を聞いた。
きっかけは、'13年にNYで絵の個展をやったとき。どうやって人を集めようかって考えて、ツイッターで僕のことをつぶやいている人、ひとりひとりに直接メッセージを送っていったんです。“はじめまして。西野です。今度、個展をやるので来てくれませんか”って。
タレント本人から届く珍しさもあったのか、“わぁ、そっちから来るんかい!”って、すごく効いた。結果、3日間で1800人来てくれました。メッセージを送る人は、《NY 寒い》とか《NY 混んでる》だとか、そのときに、現地にいるだろう人を検索しまくりました。
1対1ってすごいですね。超おもしろいって思ってその後、日本でやる僕の独演会のチケットも手売りにしたんです。プレイガイドに頼らず、自分で2000枚を売りました。地方の人のチケットは別に取り置きしていましたけど。
最近ではいきなりメッセージを送るのではなくて、ツイッターで“何時から何時まで、新宿のルミネにいます”って【出没情報】を出して、そのとき僕がいる場所にお客さんに来ていただいて、売っています。ついさっきもメッセージがきていました。
“チケット買いたいんですけど、今から受け取りにいっていいですか?”って。こういうメッセージには“劇場のトイレ前に着かれましたら、ご一報ください”というように返信して、待ち合わせるんです。その場で売るから、お釣りを入れた小さなカバンをいつも持ち歩いていますよ。
手売りをする恥ずかしさは全然ないですね。芸人仲間からは“必死やな”ってめっちゃ言われましたけどね。最初は鼻で笑われる感じでした。ナインティナインの岡村さんはラジオで、“チケット売んの、大変なんか知らんけどなぁ”みたいなことを、すごくイヤ~な感じで言っていましたよ。あの発言にはムカついているんすよ、僕(笑)。
あの人、直接じゃなくてラジオで言うんですよ。でも2000枚完売させるのに必死だったから。“別にどう言われてもいいよ。確かに俺、必死だから”って思っていました。
いちばん最初の手売りは、まだ若手だったころですね。毎週、手売りで50枚売らなきゃいけなかったんですよ。何組か集まってやるライブだと先輩の分のノルマも回される。“お前らかわりにチケット売っといて”って。
SNSもまだないから、もうデパートの前とかで、“僕らキングコングっていうんです! 今から漫才しますんで、笑ったら買ってください!”って。
そこから、また手売りするのは10数年ぶりなんですけど、手売りは一生やり続けたいですね。直接会って、手売りすると、お客さんも喜んでくれて、一緒にイベントを作ろうって当事者になってくれるんです。
逆に苦労というかちょっとストレスなのが、実際に会うとき、指定した場所に行くと緊張しているのか、話しかけてくれない人が多いんですよね。特に女性に多い。
僕は、その時点では買いに来た人の顔がわからないのに、僕のほうから声をかけなきゃいけない。だから何回か、“この人かな?”って声をかけて失敗しています。“チケットですか?”“いや違います”みたいな。“頼むから、そっちから来てくれへんか”っていうストレスはありますね(笑)。