なぜ、よりによってガス製造工場の跡地
築地市場の移転先である豊洲は、東京ガスのガス製造工場の跡地だった。ガスは石炭を燃焼させて生成するが、その過程で、副産物として発がん物質であるベンゼンやシアン化合物、ヒ素、鉛、水銀、六価クロムが生成される。つまり、東京ガスの有毒廃棄物の処分場のようになっていた場所なのだ。実際に、土壌や地下水から有害物質が確認されている。
このような土地の瑕疵(かし=欠陥)、不具合を取り除くには、膨大な除染対策費用が必要になる。その費用の支払い責任は、法的には売却側の東京ガスにある。
豊洲のようなひどい汚染がある場所では、売り主側に立って考えた場合、売却によって入手できる収入は除染費用によって削られ、かえって費用がかかることさえ珍しくない。除染費用が売却価格の3割もかかる土地の場合、“売却できない不動産”とされている。
そうした事情もあってか、東京ガスは当初、土地の売却を断っていた。
現在までに都が東京ガスに直接支払った土地の代金は578億円。そして東京ガスが売却にあたり約100億円かけて汚染対策を行い、その後も汚染が見つかったために、都は約860億円かけて除染している。つまり、汚染対策のために、東京ガスと都が今までに使った金額は合計960億円、約1000億円にもなるというわけだ。
しかも、今も環境基準の100倍ものベンゼンなどが検出されている。
汚染に対して、都の専門家会議の平田健正座長は、「地上は安全」と発言しているが、
「都は、ベンゼンの安全性について専門の調査機関に依頼し、環境基準の10倍までが許容範囲という報告書を持っていた。現状は、その10倍もの汚染レベルということができる」
と東京都環境局元職員で『化学物質問題市民研究会』の藤原寿和代表。この問題に対し、市民と専門家による調査チームの立ち上げも検討していると話す。
「揮発性のある毒物が環境基準以上に出ている場所に、なぜ生鮮食品の市場を作るのか疑問です」
と懸念するのはNPO『食品と暮らしの安全基金』の小若順一代表だ。
収穫後に農薬などを使用する『ポストハーベスト』や残留農薬の全容を追及し、輸入を抑制させた立場から、豊洲市場の「安全・安心」に厳しい眼差しを向ける。
さらに、所轄官庁である農林水産省は、「生鮮食品を取り扱う卸売市場用地としては想定できない」という見解を示している。もし小池都知事が豊洲移転を延期していなければ、こうした実態は闇に隠されていたであろう。