3・11で医療が壊滅状態になったわけ
「東日本大震災では多くの医療機関が機能しなくなりましたが、その理由がわかりますか?」
そう尋ねるのは『医療ガバナンス研究所』所長で医師の上昌広さんだ。
医療のあり方や問題点を在野の視点から研究・提言している上医師は、震災支援にも尽力してきた立場から、被災地医療の実態に詳しい。
「大災害があると、保育施設は真っ先に閉所されます。看護師の子どもの面倒を見る人がいなくなる。そのため震災後、勤務先の病院に来られなくなり、医療機関の多くが機能しなくなったのです」(上医師、以下同)
とはいえ東北の場合、東京に比べれば「まだマシ」と言える。三世代同居が多く、核家族化の割合が首都圏よりずっと低いからだ。
東京を含む首都圏では、核家族の割合が高いと同時に、待機児童が多く、看護師の数そのものが不足している。厚労省の統計によると、人口10万人あたりの看護師数は埼玉県を筆頭に千葉県、神奈川県が全国ワースト3。准看護師は東京都が最も少ない。
そんな現状のなか、首都へ巨大地震が直撃したら……。
上医師は、「小池都知事の対策は今のところまったく見えてきていない」とキッパリ。さらにこう続ける。
「首都圏の災害対策で考えておくべき問題は、DMAT(災害時派遣医療チーム)をどうするかということではないんです。看護師が働けないことの影響のほうが大きい」
医師不足も深刻「今のままでは透析患者が…」
災害時の医療を取り巻く問題は、これだけにとどまらない。
「特に考えておかなければならないのは、透析患者の問題です。彼らは週に3回は透析しなければならない。東日本大震災のときは、千葉や新潟、東京に搬送しました。
ですが、東京が破綻した場合、関東では現時点ですでに超のつく医師不足。神奈川、千葉、埼玉では受け入れることができません。今のままでは、透析患者にたくさんの被害が出ると思います」
前述したとおり、首都圏の医師不足はかなり深刻な状況にある。
千葉県銚子市では’08年、市民病院が医師不足から閉鎖。また、埼玉県の市民病院では、小児・小児外科入院診療の看板を下ろし、訪問介護や在宅診療に軸足を移した。小児科の常勤医は59~64歳の3名のみ。閉鎖は、深夜の急患に対応可能な若手医師が確保できなかったからだ。
「医師の世界も団塊世代の高齢化が進んでいます。すでに老老医療の時代に突入している」
災害は待ってくれない。東京の医療危機も、まさに待ったなしの状態。小池都知事が取るべき対策とは?
「まずは看護師の増員でしょう。いま、各地の大学がこぞって看護学部を作っていますが、東京でもそれをやるべき。実習先が足りないのなら、小池さんの権限で、都立病院でやらせればいいのです」
首都圏の医療システムは急速に崩壊しつつある、と上医師。できるところから着実に、継続的な取り組みが求められている。