心の道標となっていまも生き続ける
美容業界のレジェンドは、佐藤さんにとっても雲の上の存在だった。会ったのは10回ほど。1度だけ食事に誘われ話をしたそう。
「『美容業界に貢献したいと思うなら、もっと勉強しなさい。あんたの作るページはダサい』と言われました(笑)。その言葉があったからいままで頑張れたようなもの。手がけたヘアカタログが完成するたびに鈴木さんのお墓に持っていきました」
1年半をかけて取材したのは計191人。誰もが鈴木さんの話を思い入れたっぷりに語るため、その情報量たるや膨大だった。そして編集者のすすめによって、佐藤さんは自らの鈴木さんへの思いを軸に、鈴木さんの人物像を解き明かす原稿を書き上げた。美容業界のことを知らない読み手でも、二人の女性の物語に誘われるようにページが進む。
「亡くなった方であり、みんながリスペクトしている人に対して、自分の解釈を書き加えるのは怖かったし、たくさんのエピソードから一部を選ぶのが苦しかった。でも私、原稿を書いている間、毎晩インタビュー音声を聞きながら眠っていたんですよね。自分の身体をみんなの思い出でいっぱいに満たそうと思って。だからすべてのエピソードを書くことはできなかったけど、誰の話が欠けてもこの本は書けなかったと感じています」
佐藤さんは子どもの頃から幼なじみや同級生、彼氏など、身近な人を事故で亡くし、死とはなにかと思いを馳せることが多かったそうだ。この本を書き終え、なにか新たな発見はあったのだろうか。
「亡き後もずっと生きる人もいるのだと思いました。それは単に『その人のことを忘れなければ心の中で生き続ける』という話ではなく、自分の一部はその亡くなった人で形成されている、と感じたからです。“鈴木さんならどうするだろう”と考えてきた時間は私という人間の核を形成しています。そして、いまも私の言葉の一部は彼女の影響を受けて発しているものです。誰かの言葉や思想が、残された人の中で道標となって生き続ける。それが『道を継ぐ』というタイトルに込めた思いでもありました」
鈴木さんのようなカリスマでなくても、誰でも、誰かにとっての特別な存在になれると思う、と佐藤さんは言う。
「家族でも友人でも、まずは身近な人と真剣に向き合って生きること。それが鈴木さんが教えてくれた『いつまでも生き続ける』生き方なのかもしれません」
取材・文/宮下二葉
<著者プロフィール>
さとう・ゆみ 1976年、北海道生まれ。2001年よりファッション誌のヘアページを手がけるライター・エディターとして活躍。その経験を生かし、国内外での講演活動や美容メーカーの商品開発などに携わる。現在は幅広いジャンルの著名人から指名を受け、書籍ライターとしても活動。
※外部配信向けの本文に書名を加筆しました(2017年7月3日)