白鵬の横綱土俵入りは不知火型
白鵬の横綱土俵入りは不知火型
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 張り手は、ルールに反してはいないが、相手を痛めつけ、ひるませる技。脳震盪を起こして土俵上で倒れてしまう力士も少なくない。過去何度も、「張り手は是か非か」は議論の対象となってきた。

 カチ上げについては、そもそも白鵬のカチ上げはカチ上げでないという見解がある。一般的なカチ上げは、ヒジを90度くらいに曲げ、ヒジから手首のあたりにかけての部分を相手の腹や胸のあたりにぶつけ、弾き上げるようにして、相手の上体を起こす技だ。これなら相手が感じる痛みはそれほど大きくない。最近では高安が得意技にし、大関昇進の大きな力となった。

 ところが白鵬のカチ上げは、ヒジを曲げた形は同じだが、ヒジのあたりの固い部分だけを、相手の顔面に激しくぶつける。目的は、相手の上体を起こすことではなく、張り手と同じように、相手を痛めつけ、ひるませることにある。

 事実、過去にはこの激しいカチ上げで脳震盪(のうしんとう)を起こして倒れた相手もいる。人気漫画家でエッセイストの能町みね子さんは、この技をカチ上げではなく「パワーエルボー」と表現しているが、まさしくぴったりだ。

 そして、白鵬が横綱であること、しかも史上まれにみる大横綱であることが、荒々しさへの非難をさらに手厳しいものにする。

 横綱は、他の力士よりも抜きんでて強いことが求められる。それも、ただ勝てばいいというわけではない。自分から攻め込んで相手を圧倒するのではなく、まずは相手の相撲を受け、存分に力を出させてから、おもむろに力を出して勝つ。そんな取り口が理想の「横綱相撲」とされる。

 実際にはそんな相撲を取れる横綱は少ないが、白鵬は史上最多の39回の優勝を誇り、通算勝ち星の最多記録までも更新した大横綱だ。理想の相撲を取れるはずだと期待する声は大きい。張り手や激しいカチ上げは、そんな望みとは対極に位置する技だ。

なぜ、白鵬の相撲は「荒々しく」なったのか

 しかも、最近の白鵬は、立ち合いに変化して相手をかわすことも多い。名古屋場所では、注目の宇良の横綱初挑戦となった8日目にも変化した。こうした姿勢が、荒々しさとともに「勝てば何でもいいのか」という批判につながっている。

 では、なぜ白鵬は荒々しい相撲を取るようになったのか。

 よく聞かれるのが、白鵬に意見をする人がいなくなったという見方だ。白鵬はかつて、大鵬を師と仰ぎ、その話に熱心に耳を傾けていた。大鵬は優勝32回を誇る昭和の大横綱だ。

 白鵬は、横綱昇進後、その重さに悩んでいたときに大鵬の下を訪れ、話を聞き、時には厳しい叱咤を受けながら、多くのことを学んだという。ところが、その大鵬も天に召された。一方で、白鵬は優勝回数でその大鵬を抜き、孤高の高みを歩み続けている。

 そんな中、白鵬に意見をする人がいなくなった。それが、白鵬の現在の荒々しさを生んでいるというのだ。確かに、そうした要因もあるのかもしれない。

 しかし、私はそうとばかりは言い切れないと思う。なぜなら、白鵬はこれまで、過去の横綱の姿を手本とし、真摯に学んできたからだ。