目をつぶって差別を続ける日本

 前出・松本さんは大学時代の’04年、辺野古での座り込み抗議運動に2か月間参加し、’05年には、辺野古での基地建設の白紙撤回を訴える市民団体『辺野古に基地を絶対つくらせない大阪行動』(以下、大阪行動)を設立、JR大阪駅前で毎週末10年間も街宣行動を展開した。だが、あるときから「この運動でいいのか」との思いにとらわれる。

沖縄差別を解消し、沖縄と日本の関係を変えたいと基地引き取りを目指す松本さん
沖縄差別を解消し、沖縄と日本の関係を変えたいと基地引き取りを目指す松本さん
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「10年の街宣で沖縄を理解する府民は増えた。でも多くは“沖縄は大変だね”との他人事の認識で、市民がどれだけ反基地を訴えても、辺野古の状況は悪化する一方だったからです」

 基地撤去を訴えても、自分たちが「押しつけている」との社会的立場に目をつぶっているのは差別だ。そう思った松本さんは、「差別者」として沖縄に基地を押しつける「本土」こそ負担を引き受けるべきで、他人事から自分事として基地問題の世論を高めたいと考えた。そして’14年夏、大阪行動の会議で「米軍基地を大阪に引き取る運動をやりたい」と明言する。

「日米安保を永続させてしまう」「基地被害への責任を取れるのか」などの異論が噴出しながらも4、5人が賛同し、’15年3月、「引き取る・大阪」が設立する。

 大阪の動きを知り、市民団体『本土に沖縄の米軍基地を引き取る福岡の会』(以下、「引き取る会福岡」)を設立したのは福岡県の里村和歌子さん(41)だ。

 里村さんは’10年、山口県に在住時、広島修道大学大学院で野村浩也教授のゼミを受講。野村教授は著書でもゼミでも、「基地を押しつける“本土”の植民地主義」を説き、「沖縄米軍基地の県外移設」を訴える。ゼミを通して、里村さんも自身の「差別者」としての社会的立場を認識した。

 その後、里村さんは福岡で暮らすが、『沖縄を語る会』(大山夏子氏主宰)という2か月に1度の勉強会で沖縄問題を学ぶ。そこで’15年7月に講演をしたのが東京大学大学院の高橋哲哉教授だった。

 高橋教授はその前月、引き取りを訴える『沖縄の米軍基地「県外移設」を考える』(集英社新書)を上梓していたが、講演で「引き取る・大阪」の活動を紹介すると、里村さんは即座に決めた。勉強会の終わりに「引き取り運動を始めます。集まる人はいませんか?」と発言したのだ。

 8人が賛同し「引き取る会福岡」が設立された。メンバーは今40人を数える。

6月に5団体が連絡会を結成。東京で開催したシンポジウムで取材を受ける里村さん
6月に5団体が連絡会を結成。東京で開催したシンポジウムで取材を受ける里村さん

「引き取る会福岡」もシンポジウムや街宣などを行うが、運動を展開するうえでの厚い壁は「基地絶対反対」の運動だという。

 例えば、辺野古基地反対運動をしていたかつての仲間から「引き取るとは何事だ。基地をなくすのが目的なのに」と批判され、会を去った人もいるそうだ。

 ただし、基地絶対反対運動も引き取り運動も、将来的な「米軍基地撤去」の目標は同じだ。「引き取る・大阪」と「大阪行動」の両方で活動する人もいる。つまり、米軍基地撤去という目標実現には「引き取り」も選択肢のひとつなのに、それをただ批判するだけの基地絶対反対運動に里村さんは違和感を覚えるのだ。

 一方、「引き取る・東京」の設立は今年2月。設立メンバーのひとり、佐々木史世さん(44)は数年前に「引き取り」に関心を持った。SNSで見かけた沖縄県民による投稿《基地、おまえのとこへもっていけ》や、前述・高橋教授の著書との出会いで、漠然と「東京でも始められないかな」と思っていた。

 すると’16年3月、都内で開催された引き取りをテーマにしたシンポジウムに登壇した高橋教授と知り合ったことで、同じ意思をもつ人脈ができ、学習会を始めることができたのだ。

 佐々木さんは「“基地はどこにもいらない”との主張はそのとおりですが、それだけを通そうとするのは、沖縄の人たちにはきついと思う」と話す。

 例えば’09年の民主党政権で、当時の鳩山由紀夫首相は普天間飛行場の移設を「最低でも県外」と公言、多くの沖縄県民が期待した。結局、それは立ち消えになるが、このとき、基地絶対反対運動のなかには「立ち消えてよかった」との声もあった。「移設」は「基地はどこにもいらない」の真逆になるからだ。

 この姿勢は、沖縄県民には確かにきつい。

 今年5月、「引き取る・東京」は初のシンポジウムを開催した。その際、沖縄で長年、県外移設を訴えている知念ウシさんが一般席からこう発言した。

「県外移設は“基地はどこにもいらない”運動には聞き入れてもらえません。でも、初めてその訴えを聞いてくれたのが、この“引き取る”運動です」

 まさにこの声に応えたいと佐々木さんは語る。