予想では、地下鉄の17路線97駅が水没
ただでさえ脆弱(ぜいじゃく)な東京の水害リスクを高めた、もうひとつの原因──複雑に張り巡らされた地下鉄だ。
土屋さんが警告する。
「荒川放水路の右岸21キロ地点(北区志茂地先)で堤防が決壊した場合、6時間後には西日暮里駅など6駅、9時間後には上野駅など23駅、12時間後には大手町駅など66駅、15時間後には銀座駅など89駅が浸水すると予想されています。最終的には、17路線97駅、延長約147kmが水没します。
また、足立区千住の堤防が決壊した場合は、約4時間で東京駅が浸水し、最終的には16路線89駅、延長約138kmが水没します」
実際、台湾・台北市では、’08年に台風による洪水で地下鉄が浸水したが、犠牲者は1人も出なかった。
「浸水する24時間前にすべての交通機関を止めたからです。それでも電気系統の復旧に3か月かかりました。これが日本だったら、ギリギリまで地下鉄を動かすでしょうね」(土屋さん)
“東京は大変ね”ではすまされない。日本中が大混乱に陥る
首都水没が引き起こす最悪のシナリオとは?
河田教授は、次のように見通す。
「帰宅難民、長期の停電・断水・ガス供給の停止、通信機能の麻痺、水・食料・燃料の不足、長期にわたる電力不足や計画停電の発生、国際社会や市場への影響、物流機能の支障……被害は挙げきれません。地方に住んでいる人も“東京は大変ね”ではすまされない。わが国全体を人間の身体と見なすなら、東京は脳。ほぼすべての重要事項の決定が行われています。日本全体が大混乱に陥るのは間違いありません」
未曾有(みぞう)の水難に備え、私たちにできる対策はあるのだろうか。
「地震と違い、“水害は天災にあらず”と私は思っています。なぜなら台風の事前情報は得られるし、洪水の起こる場所は特定されているからです。水が来ると聞いたら、まず地下にいないようにする。もし、海抜ゼロメートルの場所にいたら、上層階へ避難する。肝心なのは、“知って恐れて備えよ”なんです」(土屋さん)
<解説してくれた人>
◎土屋信行さん
東京都で道路、橋梁、下水道、まちづくり、河川事業に従事。首都圏低平地防災検討会座長、公益法人えどがわ環境財団理事長。著書に『首都水没』(文藝春秋)
◎河田惠昭さん
関西大学社会安全学部社会安全研究センター長・教授。日本自然災害学会会長などを歴任してきた防災・減災研究の第一人者。近著に『日本水没』(朝日新聞出版)