「これまでお茶屋さんについて書かれた本は、実は一冊もありませんでした。お茶屋さんたちご自身が『私たちは黒子ですから』と大変、謙虚でいらして、なかなか取材が難しいというのもありました。
でも今回は、20軒あるお茶屋さんが集まる場に伺い、取材のお願いをしたんです。そこで『我々も後世に伝えるためにも、取材を受けてもいいんじゃないかと思います』という意見をいただいたので、そこから一軒一軒お話を伺っていきました。お茶屋さんが開いているのは場所中だけ。しかも地方はまた別。というわけで、なかなかタイトな時間の中での取材になりました」
伝統を伝える取材、かなりのご苦労があったようだが、それだけに完成した本には驚きの事実がいっぱい。お茶屋さんて、ただのお弁当、お土産屋さんではなく、元々は名力士や行司さん、呼び出しさんの末裔の方がやられている場合がほとんどなのだという。
お茶屋さんのおかげで大事な一番を見逃さない
「お茶屋さんは一番~二十番まであって、たとえば一番の『高砂家』さんは、常陸山という茨城出身の角聖と呼ばれた横綱のひ孫の方がやっておられるんです。6月に水戸市にある常陸山の銅像の前で、横綱・稀勢の里が大関・高安を従えて土俵入りをしたのを覚えているでしょう? あの常陸山です」
横野さんの本『相撲茶屋のおかみさん』を読むと、そういう一軒一軒のルーツや物語が分かり、「わぁ、そうなのか!」と興奮する。相撲の歴史を身近にヒシヒシ感じて、胸が熱くなる。お茶屋さんは、長い歴史を今に伝える場なんだ。
「みなさん、お気づきではないかもしれませんが、国技館は基本的に飲食持込み禁止なんですよ。チケットの裏にそう書いてあります。もちろん持ち込んでも怒られたりはしませんが、本来は館内の売店から買うものなんです。
お弁当や飲み物を買う際、お茶屋さんを通すと、粋な裁着袴(たっつけばかま)姿の出方(でかた)さんと呼ばれる人たちが席まで注文を取りに来てくれます。席を立って、大事な一番を見逃すことなく飲食を楽しめるんです。
しかも、その値段は売店と同じ。今は相撲人気で、お茶屋さんに頼んでもなかなかチケットが取れないと言います。でも、チケットぴあなどでチケットのみ自分で取って、飲食だけお茶屋さんに頼むことができるんです。相撲案内所というホームページにある番号に問い合わせれば、20軒あるお茶屋さんを紹介してくれますよ」
えっ? そうなんですか。それは初耳!