時子(佐久間由衣)と三男(泉澤祐希)、さおり(伊藤沙莉)の一風変わった三角関係やシェフ・省吾(佐々木蔵之介)と愛子(和久井映見)など、それぞれの恋にほっこりとした視聴者も多い。
「特に女の子にとっては恋愛ってものすごい一大事だし、恋愛をすると世界が変わって見えたり、人に力を与えたりする一方で、恋愛によってダメになったりすることもあって。でも、恋してることによって、なにか仕事に影響があったりとかっていうふうには描きたくなかったので、みね子が島谷と失恋したあとも、ちゃんと次の日から働くっていうのが大事だな、と。
だから、今までの朝ドラに比べたら、恋愛部分は少なかったかもしれないですね。まあヒデがじれったいっていうのもあるんですけど(笑)」
脚本家にしか味わえない贅沢とは
全156回。実にさまざまな場面を描いてきたが、特に印象深いのは?
「実は“何にも起こらない回”なんですよ。これは朝ドラの脚本家にしか味わえない贅沢で。例えばですけど、漫画家(浅香航大と岡山天音)がいなくなる回(8月21日放送)とかって、ぶっちゃけ物語の進行上、必ずしも重要ではない(笑)。豊子(藤野涼子)がクイズに優勝して、澄子(松本穂香)とハワイに行くって回(8月15日放送)もそう。まさに“連続テレビ小説”という枠だから与えられる自由です。
僕はみんながワチャワチャしてるのを描くのが好きだし、楽しいし、実は何も起きない回を描くことのほうがよっぽど技術的には難しい。たぶん視聴者の方が“うっすいな〜今日は”って思ってる回のほうが、脚本家としては大変なんです(笑)」
一方で、実(沢村一樹)を連れ戻すため、世津子(菅野美穂)のマンションを美代子(木村佳乃)とみね子が訪ねる緊迫したシーンでは、岡田の筆がさえわたった。
「本当にあの日が来るのはいやだったんですよ……。変な話、こういう深刻なシーンって、なしにもできるじゃないですか。もっとゆる~い話にスライドすることもできてしまう。そんな自分への楔として、あらかじめ菅野美穂さんという信頼できる女優さんに出演をお願いしていたので自分もしっかり描かなきゃいけないだろう! っていう気持ちもありまして。本当に逃げずにやろうと思いました。
あの場にいる4人は、ヒロインはほぼしゃべっていないんですけど、それでも成立するだけの力量のある人たちだし、演出も含めて何も不安はなかったです。画面に4人しか登場しない15分を描けるのは、とても幸せだなって思いました」