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高齢ドライバーによる重大事故のニュースが相次いでいる。うちの親にはいつ車の運転をやめてもらうべきか──報道を耳にするたび“明日はわが親”と、アユミさんのように気をもむ家族は少なくないだろう。
「高速道路の逆走」「アクセルとブレーキの踏み間違えによる歩道や店舗への暴走」など派手な事故が目立つこともあり、「免許の自主返納」を促す風潮が広がる。
今年3月には道路交通法が改正され、75歳以上のドライバーの『認知機能検査』が強化されたばかり。
どんな点が変わったのか。交通ジャーナリストの今井亮一氏に話を聞いた。
「従来までは“認知症のおそれあり”と診断された人のうち一定の交通違反をしている人だけが医師の診断を受けていました。改正法では認知症のおそれがあるすべての人を診断対象としたうえで、たとえ認知検査がセーフでも、逆走など特定の違反18種のいずれかをした人は臨時の検査を受けるようになった。検査のチャンスが増えたんですね」
昨年末時点で75歳以上の免許所有者は約513万人。うち、改正前後の今年1月~9月で18万4897人が免許を返納。すでに昨年1年間の16万2341人を上回った。
「一定の効果は出ている」と今井氏。
しかし一方で、返納後の支援に課題が残る。
「返納率が高いのは、東京や大阪などの大都市ですよ。
地方ではバスが1日、朝昼晩の3本、スーパーまで徒歩1時間なんて場所もあって、車を手放してしまったら生活の足がない」
全国の自治体も自主返納後の特典として「タクシーの回数券」や「交通ICカード5000円分」などを掲げるが、申請時の1回きり、長くて3年限定など、車にかわる継続的な支援にはつながっていない。
「報道イメージに左右される人が多いようですが、実は高齢ドライバーによる事故件数は増えていません。ただ、全死亡事故において高齢者の占める割合が拡大している。2025年には団塊世代が75歳以上となる超高齢社会に突入しますから当然といえば当然。返納した人への特典を強化するのではなく、もともと免許を持たない高齢者の生活も含めて、交通手段や環境整備を考えていかなければいけません」(今井氏)