NHK総合テレビ『あさイチ』に“スーパー主婦”として過去、何度も登場。合理的な家事哲学で数々のズボラ主婦たちを生まれ変わらせてきた井田典子さんが、初めての著書『「引き出し1つ」から始まる! 人生を救う 片づけ』を出版しました。井田さんが「片付ける」ことを大切にする理由をご紹介します。

 

「片づける」を心の安定剤に

 私の実家は地方のいわゆる本家で、頻繁に来客がありました。そのため、そこそこ広い家ではありましたが、モノの量も多い家。子どもゴコロにもたくさんのストックを管理する大変さを感じて、「私が将来、住むとしたら、こざっぱりした家がいい。たとえ狭くても」──漠然と、そんなふうに考えていたように思います。

 結婚して実家を遠く離れた私は、さみしさはありましたが「どんな家庭を築いていこうか」という希望にあふれたスタートでした。しかし、なかなか、子どもに恵まれず、不妊治療もしました。

 かけがえのないわが子。母親としてできることはなんでもしてあげたかったのです。たっぷり注がれる愛情と期待を背負った子どもも、そんな周囲の思いに応えようと必死だったのかもしれません。

 すくすくと育っていた長男が、思春期になり、挫折をきっかけに学校をさぼりがちになりました。茶髪にピアス、飲酒、喫煙。“不良少年の親”など、他人事のように思っていたわが身を恥じました。

 思い起こすと、幼い時に、長男が道を飛び出して車にはねられ、けがをしたことがありました。息子は痛がるよりも、「ごめんなさい、ママごめんなさい」と私に謝り続けたのでした。

 彼にとっては、絶対的な母親だったのでしょう。

 いい子を演じてきたけれど、思春期にたがが外れてしまったのかもしれない。でも、育児をあと戻りすることはできない。会話もないまま2年が過ぎました。お弁当は持っていくのに教室には入らず、夜遅くまで帰宅しない日々。どこで何をやっているのだ
ろうか。連絡もありません。

 悶々としながら息子を待ち続ける長い夜、私は家計簿をつけたり家の片づけをしていました。

 引き出しを1つ片づけると、心がふっとラクになる気がしました。モノの整理がつくと心の整理までできるように思いました。

 目に見えるものを片づけることで、やがて目に見えない心が整えられ、私自身が変わることで長男に対しての言葉がけも少しずつ変わっていきました。

 子育ては人間が相手。当然、思い通りにはいかない。けれども、家事や時間やお金の使い方は自分の思うようにコントロールが可能だということに気づき、そこに救いを求める気持ちがあったように思います。

「枠」を決めて暮らせばラクになる

「枠」を決める──そういうと、何かとても窮屈で不自由な生活を想像されるかもしれません。

 じつは、その逆です。

 モノも空間も、お金も時間も体力も資源も、無限ではありません。

「枠」を決めて、そこに入るものだけで暮らすことは、何が自分と家族にとって大切なのかを知り、必要にして十分なだけのモノと暮らす、満ち足りた生活です。

 なんでも安く簡単に手に入る社会で、日々巧妙な広告や宣伝を目にするうちに、私たちは「家に迎え入れるモノ」に対してのハードルが下がってしまったようです。

 本当に必要なのか、そもそも心底欲しいものなのかもあいまいなまま、なんとなく手に入れたものに圧迫されて縮こまって生活するのは、苦しい。

 たとえば収納を例にすると「全部あなたにまかせるから、なんでも好きにしていいよ」と言われたら、一瞬は自由を感じると思いますが、のちに途方に暮れるでしょう。でも「ここのひとつの棚に入るだけの量で、好きなものを飾っていいよ」と言われたら、どうでしょうか。必要なモノから、または好きなモノから選び取ろうと頭と心がフル稼働し、楽しんで工夫できます。

「お金」「時間」「空間」──予算、締め切り、などすべてにおいて、制約があるからこそ、自由を楽しめます。

 枠さえ決めれば、どう仕切るかは自分しだい。そこに楽しみや工夫が生まれてくるのですね。

『「引き出し1つ」から始まる! 人生を救う 片づけ』井田典子著/本体1200円+税/主婦と生活社刊 ※記事の中で画像をクリックするとamazonの紹介ページに移動します

<著書情報>
『「引き出し1つ」から始まる! 人生を救う 片づけ
1月26日発売。「片づけと収納」「家事」「心地よい暮らし」の3つの方面から、家事の考えをあますことなく語った55編のエッセイ。本体1200円+税/主婦と生活社刊。

<著者プロフィール>
整理収納アドバイザー。相模友の会(婦人之友読者の会)所属。NHK総合テレビの情報番組『あさイチ』等で“片づけの達人”、“スーパー主婦”として活躍。主婦ならではの実践的な整理・収納術が好評で全国各地で講演会を行う。