「社会的な産みどきは30歳からたった9年くらいなのに、世の中の風潮は、その限定された枠の中で産め、と追い詰めている気がします。例えば、学校の先生だったら、担任を持っているのに学期途中で産んだら困るとか、職場で2人同時に妊娠されたら困るとか、圧力を感じるときがありますよね。一方で、その枠に当てはまるように、この人の子を産みたいって人と出会って、うまいこと妊娠して、仕事のタイミングもばっちりなんて、どれだけぴったりとタイミングを合わせられるのでしょうか。実際にはとても難しいことですよね?
婚外子の割合はフランスは48.4%ですが、日本はわずか2.29%です。まだ未婚のまま妊娠・出産をすることの理解を得づらく、婚姻制度の中でしかできない部分が大きい。妊娠・出産に対する社会の要請や圧力と、現実の乖離(かいり)は大きくて、産みたい人も産めない状況になっている。
これからの世代に対しては、いかに妊娠・出産期の寛容さをもつかが大事だと思います。障害やLGBTと一緒に、妊娠・出産も『多様性』があるという認識が広がってほしい」
社会の意識だけでなく、サポートの拡充も必要だ。中島さんによれば、妊娠葛藤窓口の数は、ドイツでは1700か所と日本の約40倍。身近に相談できる場所をもっと増やすことで、一人で悩む女性をキャッチするできる可能性が高まるだろう。また、将来妊娠する女性をサポートしようという観点から、「妊娠したかも」と思った時の婦人科の初回受診料8500円程度を、公費負担で500円くらいまで安く抑えられるようになればいいと中島さんは話す。「病院のハードルも下がるし、不妊の原因になるといわれるクラミジアなどの性感染症の早期発見・予防にもなります」
少しずつでも、社会の変化は、小さな命を救うことにつながっていく。
「たとえ思いがけない妊娠であっても、妊娠したい人が産みたいと思ったら、せめて“いいよ”と言ってあげられる社会であってほしいなと思います」
祈りを込めた中島さんの言葉が重く響いた。
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<プロフィール>
中島かおり
一般社団法人にんしんSOS東京代表理事。東京都立大学(現・首都大学東京)卒業。理学部生物学科修士課程修了後、ガンの免疫治療法の研究に携わる。第2子出産の際、にんしんSOS東京の発起人である宗祥子助産師との出会いをきっかけに助産師を目指し、同大に再入学。病院・助産院を経験後、女性の側に寄り添う助産師でありたいと地域で活動しながら、にんしんSOS東京(https://nsost.jp/)の運営に携わる。
(取材・文/小新井知子)