実の親は生きているのに頼れない
生みの母親に会ったことはある。でも「過去の親」と言って、現在の家族と区別している。
「将来は自立してなんでもできるようになりたい。でも、嫌なことがあったら帰れる場所が里親の家」
そうBさんは話す。
ただ、社会的養護の親子関係は、子どもが自立したあとの課題も大きい。児童養護施設や里親家庭で育った子どもたちの相談に乗る、『アフターケア相談所ゆずりは』所長の高橋亜美さんが指摘する。
「社会的養護で育つ子どもたちが、施設への入所や里親のもとで育つ背景には、虐待や貧困などの問題があります。実の親は生きているのに、安心して頼れない。その困難があります」
例えば、アパートを借りるときや就職に際して、身元保証人が必要になる。携帯電話の契約でも、未成年ならば親のサインを求められる。しかし、実の親には頼めない、あるいは頼みたくないという心情がある。
「アパートは保証会社を利用することもできますが、そのための保証人が必要になることがあるんです。保証人のサインがないと、家賃が上乗せされたり、リスクが高い物件を借りることになりかねない。本人のせいではない問題の相談は、常にあります」(高橋さん)
また、子どもが18歳を過ぎた場合、児童相談所のサポートはなくなる。里親と良好な関係が築けなかった子どもも、18歳以降にサポートを受けられない。施設で育った子どもに対しては、施設側が「アフターケアも仕事としてやっていくべき」と高橋さんは主張する。
「里親、里子ともに、自立したあとも相談できるような人や場所などの公的支援が必要。現状では相談先が乏しく、抱え込む人も多いのではないでしょうか」
東京都は、養子縁組したケースを除き、児童養護施設などで育った人たちの追跡調査をしている。'17年の調査では生活が安定しないためか「困っていること」として「消費者金融やクレジットなどの借金」が9割を超えた。生活保護を「受けている」と「受けたことがある」を合わせると、13・7%('10年調査)から20・2%('17年調査)と6・5ポイント増加している。
社会的養護をめぐっては前述のような課題がある。しかし、養子縁組ができれば、家庭内の人間関係は比較的、安定するようだ。