映画『ピンポン』後に仕事
殺到も芸能活動を一時休止
そして’99年公開の映画『ワンダフルライフ』で役者デビューを飾る。
「是枝監督からは“芝居をしなくていい”と言われたので、その言葉を信じてやりました。是枝監督の実験に参加させてもらえたことは本当に貴重な経験。そこで得たもの、感じたものがすべてのルーツになっています」
役者の仕事に刺激や楽しさを感じる一方、居心地の悪さも感じていたようだ。
「『ワンダフルライフ』の現場で寺島進さんや内藤剛志さんといった叩き上げの役者の方々とご一緒させてもらったのですが、そんな方たちを前にして、ポンと突然、映画の現場に放り込まれた僕が、“役者です”と簡単に言っちゃダメだなという思いがあって。今はたまたま目新しさで求められているかもしれないけど、ちゃんと演技の世界でできるのか、というのを確かめたかったんです」
そのためしばらくは、納得した作品だけに出演していたとか。そして4作目となる映画『ピンポン』(’02年公開)では主要キャストであるスマイル役に抜擢! 同作は日本アカデミー賞で8部門を受賞するなど、高い評価を得ただけに、井浦のもとにも多くのオファーが届くようになったが、1度ドロップアウトしてしまう。
「窪塚洋介くんや『アンナチュラル』でも共演している大倉孝二くんなど、勢いのある役者ひと筋の同世代の俳優と一緒になったことで、“僕はここにいていいのか?”と、気持ちが引いてしまったんです。こんな気持ちのまま仕事をしたら、映画に失礼だと思い、事務所の方に頼んでオファーはすべて断ってもらいました。表に出なきゃみんな忘れてくれるだろうと、そこから数年は服づくりに専念していました。自分の心がまだ育っていなかったんです」
芸能活動をしていなかったにもかかわらず、映画業界は彼を忘れることはなかった。映画『青い車』(’04年公開)ではプロデューサーを務めていた、映画監督・越川道夫からオファーが届いたことで、再び役者としての人生を歩み始めることに。
「最初はいつものように断ったんです。だけどそれでも“とりあえず会いましょう”と何度も言ってくださって。数年間、活動していない僕をこんなに求めてくれる人たちは、どんな方なんだろうと興味が湧いて会うことにしたんです。自分が思ってもいなかった方向に人生が進んだとき、そこに向かっていくほうが大変だと思うんです。僕は言い訳をしながら逃げてしまったのですが、そんな僕を求めてくれたこともうれしかった」
言葉を選びながら、丁寧にこれまでのことを振り返ってくれた井浦。モデル、デザイナー、役者……とさらりとこなすだけにてっきり器用な人かと思っていたが、「見せかけです(笑)」と笑いながら、こう続けた。
「不器用なタイプだと思います。絶対効率よくできるだろうってことも、遠回りの道を選んでしまう。でも結果論ですが、そうして時間かけて遠回りした分、今の自分がある」