「オーディションで“日本のダスティン・ホフマンこと、矢柴俊博です”なんて自己紹介をしていましたね。とにかく違いを出したくて」
役者を始めた20代のころは主役が多かったという。
「学生時代は劇団を主宰していたので、必然的にエースで4番みたいな感じでした。ところがプロになると、2番とか7番とかの役を任されるようになって最初はさじ加減が難しかった。7番のくせにホームランを狙って、編集でカットされてましたね(笑)」
脇役ばかりの依頼が続いたが、そこに自分の特色を見つけたことで、数多くのドラマや映画で活躍するように。
「見た目が普通っぽいからドラマの片隅に置いておきやすいんだと思います。眼鏡をかけてスーツを着ればサラリーマン、白衣を着れば医者。僕はコスチュームに染まりやすいんです。いろんな職業に“いそう感”がある。物語には華やかな主役だけでなく、小市民も絶対に必要ですから」
そのためドラマの現場に2、3日だけ顔を出して終了というワンポイント出演が多いという。
「だからなのか、通りがかった人に2度見されて、スマホで検索されます(笑)」
矢柴には、バイプレーヤーとしての矜持がある。
「オーケストラでいえば主役はトランペットやバイオリンなどのメインストリームであり、僕のような脇役はピッコロとか木琴(笑)。ピッコロなのに花形楽器のふりをして音を鳴らしても、わかる人が聴けばすぐにバレますし、全体の旋律を乱してしまう。ピッコロはピッコロなりのキレのよい澄んだ音があるはずです。僕も僕なりの音色を極めていきたいですね」