事件の2日後、オウム真理教の教団施設に強制捜査が入った。

 オウム真理教は、当時大きな社会問題になっていた宗教団体だ。出家した家族が帰らなくなり、不気味な教団施設が地元住民の反発を受けていたが、教団幹部や教祖の麻原彰晃(本名:松本智津夫)がメディアに出演して、教団批判への反論を繰り返し、異様な“劇場”を世間に見せつけていた。

 そのような宗教団体であるにも関わらず、甘いマスクを持つ教団幹部に女性ファンがつき、歌って踊る女性信者の美貌が話題になり、教団に魅せられる若者が絶えなかった。一方で、教団から多数の候補者が国政選挙に立候補するなど、不気味さを増していた。

 オウム真理教は、密かに化学工場とも呼べる施設を作り上げて、化学兵器であるサリンの生成に成功していた。しかし、警察による強制捜査が近いことに気づいた麻原は、証拠を消すべく、生成したサリンを破棄していた。

 そのため、地下鉄サリン事件では純度の低いサリンを使うしかなかった。地下鉄サリン事件は、死者13名、負傷者約6,300名という甚大な被害を出したが、もしも純度の高いサリンが使われていたならば、はるかに大きな被害になっていたのだ。

 逮捕された教団幹部の中には、慶応大学医学部出身の心臓外科医で、石原裕次郎の手術チームの一員にもなった男がいた。千代田線の実行犯、林郁夫である。彼だけでなく、オウム真理教の信者には理系エリートが多い。日比谷線の北千住方面の実行犯は、東京大学の博士課程まで進んだ豊田享で、丸ノ内線の荻窪方面の実行犯は、早稲田大学の修士課程まで進んだ廣瀬健一である。

 オウム真理教は、空中浮遊などの荒唐無稽なことも唱えていた。そこに、高い教育を受けた彼らが入信し、サリンの生成を成功させるなどして、無差別大量殺人へと突き進むのである。