書くことから離れていた植本さんは、石田さんの葬儀の翌日からまた日記を書き始めた。
「石田さんが亡くなるまでの間のことで、残しておきたい言葉や情景があったから、忘れてしまうのは惜しいと思ったんです。精神的にも解放されたせいか、すごくフラットに書けるんですね。いまは書きたくて書いている感じです」
一方、写真についてはどうだったのだろうか?
「わたしの場合、写真は記録を残すという面が大きいです。作品をつくるという意識よりも、家族のアルバムをずっと撮りつづけてきたという気がします。亡くなるまでの3か月は、撮った枚数はすごく少ないですね。いまは文章に比べると、写真に対してそれほど敏感ではないのですが、徐々に感覚が戻ってくればいいと思います」
安定を求めつつ、不安定な方向へ向かってしまう自分を「不幸な体質です」と言いつつ、植本さんはきっと、これからも書くことから離れられないだろう。
ライターは見た! 著者の素顔
植本さんの最近の楽しみは、子どもたちと一緒にNintendo Switchで遊ぶことだという。「みんなでマリオカートで対戦しています(笑)。これまでゲームをやってなかったので、楽しいですね。以前はそういうひまがあれば、本を読んだり美術館に行ったりすべきだと思っていました。あと、Netflixに入って、韓流ドラマを見まくっています。なんだか現実逃避していますね(笑)」。植本さんの日記にゲームやドラマが登場する日も近いかもしれません。
<プロフィール>
うえもと・いちこ◎1984年、広島県生まれ。2003年、キヤノン写真新世紀で荒木経惟氏より優秀賞を受賞し、写真家としてのキャリアをスタートさせる。広告、雑誌、CDジャケット、PVなど幅広く活躍中。著書に『働けECD わたしの育児混沌記』『かなわない』『家族最後の日』がある。
(取材・文/南陀楼綾繁)