こんなハラスメントフルコースな夫には、アラート鳴らすどころか、波動砲ぶちかましたいが、暴力はダメ、ゼッタイ。ということで、もし自分の夫がよそさまに向かって高圧的な態度をとるのを目撃したら、躊躇(ちゅうちょ)なくいさめよう。もし自分に対して高圧的なら……全速力で逃げよう。対等な関係を築けない関係は、夫婦ではない。主人と奴隷って言うんだよ。
現実逃避に他人を巻き込む妻・木村多江
で、妻・木村多江もアラート案件だ。ユースケのような夫に虐げられている不幸な女に、同情票が集まるかと思いきや「あざとい」「怖い」「気色悪い」と批判の嵐である。
なぜなら、たまたま知り合った営業の既婚男性への距離が近すぎるからだ。あ、説明していなかったけれど、玉木の浮気相手は多江なのよ。
モデルハウスで意味不明なママゴト小芝居を始めて玉木を付き合わせるわ、酔った玉木を介抱するも勝手にズボンを脱がせるわ。普通じゃないでしょ?「奥さんではなく名前で呼んで」とか「幸せです、でも、さびしい」とか「あなたの家庭を壊すつもりはありません」なんてのたまう。自分の現実逃避によその夫を巻き込む、手練れの技だよ、これ。
清楚でおとなしい女なのに、狙った獲物に性的妄想を植え付ける。これは明らかにどう猛な肉食女の言動だ。食われてる玉木だけが気づかないという滑稽さ。そら、アラート鳴りまくりですよ。女たちは知っているからね、見た目とあざとさは一致しないことを。
ただ、多江が抱える心の闇に、寄り添う気持ちはけっしてゼロではない。第2話で、ユースケが多江に迫るシーンがあった。「おい」と呼びかけるユースケ。多江は無言でパンツを脱ぐ。その後で、多江は台所にいる。鍋の焦げ付きを必死にこすり落とす……。
このシーンに私は釘付け。モラハラ夫の性的要求に無言で応えるしかない妻の絶望感たるや。鍋の焦げ付きは自分の身にこびりついた夫の残滓(ざんし)という暗喩。なんかね、悲しくなってしまったよ……。玉木に逃げたくなる気持ちも、わからんでもない……。
玉木&中谷夫婦は、たぶん再生&結束を目指すのだろう。でも、ユースケ&多江のアラート夫婦はどんな答えを出すのだろうか。多江は解放を選ぶか、それとも一生ユースケの奴隷を選ぶか。女が長年奪われてきた主語を勝ち取れるかどうかが見どころだ。
吉田潮(よしだ・うしお)◎コラムニスト 1972年生まれ、千葉県船橋市出身。法政大学法学部政治学科卒業後、編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。医療、健康、下ネタ、テレビ、社会全般など幅広く執筆。テレビ『新・フジテレビ批評』(フジテレビ)のコメンテーターも務める。また、雑誌や新聞など連載を担当し、著書に『幸せな離婚』(生活文化出版)、『TV大人の視聴』(講談社)ほか多数。新刊『産まないことは「逃げ」ですか?』に登場する姉は、イラストレーターの地獄カレー。公式サイト『吉田潮.com』http://yoshida-ushio.com/