多作が独創を生み出す

『SWITCHインタビュー達人達(たち)』で塙氏は、「うなぎのタレのように注ぎ足し注ぎ足してネタを作っている」と語っていた。

 毎日、目の前の人を笑わせると、間がわかり、ネタの強弱がわかるのだ。

 ネタに関しては塙氏が担当。一度、塙氏が書いた台本を、土屋氏がお客さんの目線でツッコみながら構築してゆくという。

 塙氏の話を要約すると、

 月に一度のライブや舞台に向けてネタを作っている若手がいるが、芸人を目指した以上、月に10本、20本ネタを作るのは当たり前。2人で顔を合わせ、一からネタを作っていたんじゃ、いつまで経っても完成しない。だから自分が先に台本を書く。そうすることによって多くのネタが量産できるという。浅草はそのネタを下ろせる実験室になるのだ。

 と語っていた。

 以前、若手芸人のネタを見るという仕事を私がやっていた時、若手たちは、週に一回、相方とネタの打ち合わせをすると言っていた。「それは何時間くらい?」と聞くと、「1〜2時間ですかね」と答えた。唖然(あぜん)とした。部活の中学生でももっと練習してるだろ。

「売れたいです!」と売れていない若手は目を輝かせ言う。この売れるの中にはどんな意味が含まれているのだろう。

 自分の面白いと思うことを、漫才という表現でアウトプットする。自分の面白いと思うことを、漫才という表現ではないが、常に模索し続ける。これ以外のパターンで売れる場合、それは幸せなんだろうか。

 多作が独創を生み出す。寄席でネタを下ろす時がワクワクする。目の前の人を笑わせる。

 お客さんの反応が芸を育ててくれる。ナイツにとってライブが品質管理の源なのだ。

 今日、あそこにいる人が腹を抱えて笑っていた。それが賞レースで勝つことより、嬉しい。それがナイツスタイルなのだ。

 好きなミュージシャンの新曲が待ち遠しい、ライブが待ち遠しい、あのお店のあの味が相変わらず好きだ、あの落語は何度聞いても笑える〜そんな、常にお客さんファーストのナイツのブレない普遍性に憧れる。だからテレビはその雄姿を映す存在であってほしい。

<プロフィール>
樋口卓治(ひぐち・たくじ)
古舘プロジェクト所属。『中居正広の金曜のスマイルたちへ』『ぴったんこカン・カン』『Qさま!!』『池上彰のニュースそうだったのか!!』『日本人のおなまえっ!』などのバラエティー番組を手がける。また小説『ボクの妻と結婚してください。』を上梓し、2016年に織田裕二主演で映画化された。著書に『もう一度、お父さんと呼んでくれ。』『続・ボクの妻と結婚してください。』。最新刊は『ファミリーラブストーリー』(講談社文庫)。