また、『俳優のノート』を出版するなど、独自の演劇論を持つ彼は、守一の言葉“絵描きくさいのはやりきれない。それは大変な欠点です”という姿勢に惹かれ、いつも素人でいることが表現者にとっていちばん大切だと、映画の副読本『モリカズさんと私』(文藝春秋)に記している。絵描き然とした絵描き、俳優然とした俳優など、技術ばかり先行した人に、ろくな者はいないと常々思っているそう。
「うまいっていうのは、わかりやすい説明の部分が入ってくるんです。例えばある舞台で演じた場合、500人の方が見たら、みな同じような感想を持つのが昔は名優と呼ばれていた。
でも、人間はそれぞれ感性が違うわけだから、“それはどうもおかしいぞ”と前から思っていて。わかりやすい説明的な演技、つまりどんな複雑な心境で怒っているのか、喜んでいるのかというのを克明にするのがいい演技だとは思わないんです。“500人が見て500通りの答えがあるのがいい演技なんじゃないか”って思いますね」
世間とどう付き合うかは一生のテーマ
かねてから「僕のアイドル」と山崎も憧れていた熊谷守一について描いた本作。“彼のように自由に生きていくにはどうすれば?”と質問すると、
「どうしたらいいんですかね……わからないな。でも、どうやって世間と付き合っていくかっていうのは、一生のテーマだと思いますね」
と語り、思いを語った。
「世の中にはいろんな生き方をしている人がいて、日常の中で付き合って暮らしていく。それぞれなりの変わった生き方をしていると思うし、これが正しいっていうのは何もないわけです。でも、人間っていうのは群れて生きてるわけですからね。周りを気にしてしまうのはしかたないですけど、守一の生きる姿に、“人間はいろんな生き方ができるんだ”ということを感じ取っていただきつつ、ご覧いただければと思います」
やまざき・つとむ◎1936年、千葉県生まれ。俳優座養成所を経て、'59年、文学座へ入団。'60年、三島由紀夫の戯曲『熱帯樹』でデビュー。'63年劇団雲の結成に参加し、同年の映画『天国と地獄』で誘拐犯役を演じて注目を集めた。その後も数多くの映画、テレビドラマ、舞台で活躍。2000年紫綬褒章、'07年旭日小綬章を受章。著書に『俳優のノート』『柔らかな犀の角』『モリカズさんと私』(共著)がある。
(取材・文/成田全)