回復のカギは「親離れ」
「何人もの摂食障害の人を取材するうちに、わかってきたことは、ほとんどの人が親への依存があるんですよ。別の言い方をすれば、親離れ子離れの失敗です。しかも、優しくて感受性の鋭い子がなりやすいともいえる。
現代の競争社会で、いい学校に入って、いい会社に勤めて、お金を稼げたら勝ち、みたいな世の中で、親の期待に応えようとまじめに考える子ほど、生きるのがツラくなって摂食障害を患ってしまう。それが“時代の病気”といえる所以です」
そう話してくれた小野瀬さんによると実際、摂食障害になる人は現在、40歳から上の世代には少なく、そのあとの世代から急激に増えている。しかも、その根幹となる要因は、4~5歳ごろに親から受けた心の傷にあるという。
まさに幼いころから母親を気遣い、不安に心を痛め、「親を悲しませないように」と親の期待を自分の人生とすり替えてきた奈央さんの生い立ちと、すべてが重なる。
「だから、いちばん大事なことは、依存の大本である、親離れを実現すること。親元から通いながらでは摂食障害は治らないんです」(小野瀬さん)
驚くことに、親と離れただけで施設に来たその日に、ほとんどの人が普通にご飯が食べられるようになるという。
そこから、本当の意味での治療といえる心の回復、親の価値観から離れた自我の形成が始まる。しかし、奈央さんは何度も無断で施設を抜け出し、隠し持っていた携帯電話で山の中から母親に電話をかけた。彼女の心は、頑なに治ることを拒み続けた。
「症状を手放してしまったら、私は生きていく場所がない、と思いました。普通に考えたら反対なのでしょうが、私にはきちんと自立して生きる能力がない、何の価値もないダメ人間だと思っていました。
治って、自分の価値のなさをわざわざ証明したところで、親を失望させるだけ。それなら、どんなに苦しくても、どんなに醜くても、過食嘔吐を続けて、働けなくてもしかたがない、と思ってもらうしかありませんでした」