髪の毛や流れた血の痕には、強い殺菌力を持つ次亜塩素酸水を散布して除菌をする。ゴミを取り除いた後、血や体液で汚れた床や壁紙をはがす。今回の物件は、塩化ビニールの床材だったので簡単にはがせたが、これが木製だったりすると、はがすのもひと苦労だ。
「これらの作業は、遺品整理をされる遺族のためにしているんですよ。遺体の跡があったり、死臭が漂っていたら、とてもじゃないが部屋には入れないからね」(佐々木社長)
しかし亡くなった男性の遺族が来る予定はまだない。声をかけようにも、遺族が見つからないのだ。孤独死の場合は、死後も親族が見つからないことがよくある。
亡くなった男性は、肉体労働に従事していたようで、部屋には道具箱や作業着などがあった。床にはビールの空き缶や焼酎の大型ペットボトルが大量に転がっていた。独居老人の寂しさを、酒で紛らわせていたのかもしれない。
床には借金の督促状が入った封筒がたくさん落ちており、机の上には几帳面に小銭が並べられていた。残りわずかなお金で、今月をどう過ごそうか悩んでいたのか。
1時間の作業で汚染されていた部分は完全に清掃され、その段階で室内の異臭はほぼ消えた。最後に次亜塩素酸水を室内に噴霧して部屋全体を消毒、オゾン消臭器でにおいを完全に消して作業は終了。
清掃中に遺体を発見したことも
佐々木社長いわく、今回の現場は比較的処理が簡単だったという。床下まで体液が流れ込んでしまっているケースや、一家心中などで複数人が亡くなっているケースでの作業は大変なものになる。
「いちばん大変なのは、お風呂で亡くなられた場合なんですよ。ドロドロに溶けた液体を処理しなければならない。下水には流せませんから、液体をボトルに詰めて、専用の処理場で処分してもらうんです」
珍しいケースでは、ゴミ屋敷清掃の途中に遺体を発見したこともあるという。
「住んでいたおばあさんが蒸発してしまったため、そのゴミ屋敷を片づけてほしいという依頼でした。部屋を片づけていたらゴミの下からミイラ化したおばあさんの遺体を見つけたこともありました……。積もったゴミが崩れて埋もれたんでしょうね」
遺体が運び出されてから作業を再開したという。過酷な現場だ。