介護疲れで“いっそ殺して”はイヤ
そんなマキさんには、その先の夢がある。
「(千葉県)新浦安にお声をかけてくださる高級老人ホームがあるんです。お部屋からは毎日ディズニーランドの花火が見えて、ロビーには豪華なシャンデリアがあって。そういう所に入るのが夢ですね。
孤独死はイヤですし、介護に疲れて虐待したとか、闘病疲れで“いっそ殺して”なんて言われて首を絞めちゃった老夫婦のニュースを見ると、心が痛みます。
ジョンも私も今は仲よくやっていますけれど、どちらかに何かあれば介護疲れも出ますし、“殺して”ってどちらかが言いだしたら、憎くて殺すんじゃなくて不憫で手をかけてしまうかもしれない。それはイヤなの」
人はひとりでは生きていけないけれど、築いた関係性が儚く壊れることもある。それを知っているマキさんは、2人の未来を思い描きながら、今日もステージに立つ。
「本番前のリハーサルに寝坊したりしないよう、前日入りしたんです。それで昨日の夜、ジョンにホテルから電話をしたの。“いま何してたの? ひとりで寂しく晩酌してたの?”って。
“寂しくはないけれど、マキちゃんがいないから既製品とちょこっと作った炒め物を食べて、今から寝るところよ。マキちゃんも早く寝なさい。明日、成功するといいね”って」
その電話が効いたのか、イベントは大盛況。妖艶な踊りと情感あふれる歌、そして、ここには書けない裏情報満載のトークショーに客席は大いに沸き、たくさんのチップが宙を舞った。
イベント後のマキさんに今日の自分に称号をつけるなら? と聞いてみた。返ってきた答えはこうだ。
「片田舎住まいのノー整形の還暦オヤジの女装にしては、よくやったほうかな」
〈取材・文/山脇麻生〉
〈PROFILE〉
マキさん
本名:宮本昌樹。早稲田大学教育学部国語国文学科卒業(文学士)。大学在学中から六本木のゲイクラブ「プティ・シャトー」で活躍。卒業と同時にフリーになり、観光にグルメ、ラブハントを兼ねて全国を行脚。その後、レストランクラブの経営や進学塾の講師、OLなどさまざまな職を経験。現在はステージを中心に活躍中。
HP「ジョン&マキ倶楽部」:http://www5e.biglobe.ne.jp/~johnmaki/