と、片づけながら話す佐藤さんが寝室に足を踏み入れると声をあげた。寝室の入り口の床には、エロ本の切り抜きがずらっと並べられていたからだ。しかも女子高校生をテーマにした写真ばかり。
「70歳近くになっても性欲ってなくならないものなんですね。しかもロリコン趣味なんて……」
父親もできれば娘に醜態を晒したくはなかったはずだ。
掃除を進めるうちに、引き出しから預金通帳が見つかった。そこには80万円弱の貯金が。佐藤さんは額を確かめて、ホッと安堵のため息をついた。
結局、部屋のリフォーム費用で9万円。火葬費用と合わせて約50万円の出費だ。
「ギリギリですが父の貯金でなんとか間に合ってよかった。今は無事に父を送ることができてホッとしています」
と佐藤さんは微笑む。
生前に父親がよく通っていた飲み屋の店主は、父親のこんな姿を鮮明に覚えていた。
「よく娘さんの話をしていましたよ。娘が、娘がってね。怒ったら娘さんの話をすると静かになるんですよ。大事に思っていたんでしょうね」
ずっと娘を思う気持ちだけは持ち続けていた。
荷物のほとんどを処分したが、家族写真だけは手元に残した佐藤さん。帰り際、父親への思いを口にした。
「反面教師と思っていましたが、父が生きた人生を尊重したいと思います。でも、父の遺骨をどこの墓に納めるかで悩んでいます。捨てたら犯罪ですし……」
家族のために、終活の準備は万全を期したい。
むらた・らむ ライター、イラストレーター、漫画家。汚部屋やホームレスなど、ディープな潜入取材が得意。著書に『ゴミ屋敷 奮闘記』(有峰書店新社)など。7月27日には20年にわたる樹海取材のルポをまとめた『樹海考』(晶文社)を上梓する