平気でウソをつく窪田は、一瞬サイコパスなのかなと思いきや、ちゃんと感情はある。罪悪感もある。人の心に寄り添うこともできる。
ただ働きたくないだけ。働かないためなら全力で何かをやり遂げる。それがたとえ無駄骨だったとしても、純粋に、がむしゃらに。そこなのかな、ヒモメン窪田を手厳しく糾弾できないところは。
たぶんコンプレックスがないからだ
いやいや、全力で何かに取り組めばいいってもんじゃない。本来なら、窪田のさんざんなヒモっぷりを、鬼の形相でもってオンナアラートを鳴らしたいのだが、ある1点が私の心を透きとおらせる。
それは、窪田が「自分と他人とを比べない」からではないかと思う。
学歴だの、年収だの、身長だの、有名人と知り合いだのと、やたら人と比べたがる男性は多い。本人は比べているつもりがなくても、自分が優位にあることを暗に表現しちゃったりもする。言葉の端々に出ちゃったりもする。
ところが、窪田には「俺って他の男よりも優れてるでしょ?」という優越感アピールが一切ない。
逆に、優位に立てない劣等感で他人に対して攻撃的になったり、コンプレックス過積載で、自虐に走り過ぎて面倒くさい人もいる。こっちのほうが厄介。窪田にはそれもない。看護師の彼女に食わせてもらっている引け目もなければ、金や権力になびきもしない。
初回、病院の出資者で、横柄どころか横暴な振る舞いの患者(宇梶剛士)が窪田と対峙するシーンがあった。そこで窪田は言い放ったのだ。
「見くびらないでください! 僕は無職です! 無職の前では(金も権力も)無力です!」
無職でも卑屈にならない強さ。窪田の辞書に「コンプレックス」という文字はない。自分を他人と比べて一喜一憂する馬鹿馬鹿しさをふんわりと教えてくれる。そもそもホームレスになる気満タン。働かないという強い意志のレベルも次元も違うのだ。