上田慎一郎監督がこの企画を思いついた時のノリ。緻密に脚本にした時のノリ、それをスタッフや役者が読んだ時のノリ、実際にこんなことできるのかと準備をした時のノリ、そしていざ撮影に突入した時のノリ。このノリがバトンのように繋がったことにこの映画の面白さはあると思う。
上映後、上田監督のトークがあった。その時、「一度、ワンカメで撮ることを諦めようとしたことがあるんです」と言った。奇想天外なことを映像にするのは物凄く大変で、発案者の心が折れそうになったのだ。その時、上田監督はスタッフに「何言ってるんですか、諦めずにやりましょうよ!」と言われたという。想像だが、スタッフが脚本を読んだ時の感動が、このノリを作ったのだと思う。
映画を撮り終え、試写するまでのノリが織りなすかけがえのない時間が羨ましい。それを体験したスタッフ、役者に嫉妬する。
この映画に携わった人たちはこの後、このノリを胸にまたいい作品を作るだろう。この映画を観て感動した観客の中から新たなノリが生まれるかもしれない。
そして我々、テレビに携わる人たちは、このノリをしかと受け止め超面白い番組を作っていくのがシェアすることだと思う。
シェアは、感動に感化され、もっと感動する作品を作ることなのだ。
どこかで、映画を観たお調子者のディレクターが、飲み屋で、「くそー、上田慎一郎、今に見てろ!」と素敵なくだを巻いていてくれないかな。
ヒット作品は誰かを奮い立たせるパワーがある。
『カメラを止めるな!』に参加した役者のみなさん、ノリのいいスタッフと仕事をしてドンドンいい作品に出会ってください。
<プロフィール>
樋口卓治(ひぐち・たくじ)
古舘プロジェクト所属。『中居正広の金曜のスマイルたちへ』『ぴったんこカン・カン』『Qさま!!』『池上彰のニュースそうだったのか!!』『日本人のおなまえっ!』などのバラエティー番組を手がける。また小説『ボクの妻と結婚してください。』を上梓し、2016年に織田裕二主演で映画化された。著書に『もう一度、お父さんと呼んでくれ。』『続・ボクの妻と結婚してください。』。最新刊は『ファミリーラブストーリー』(講談社文庫)。