消えた画像がなぜ蘇る!?

 実際に村林さんの修復作業を見せてもらった。

理解すべきなのは、写真が紙と銀とゼラチンでできているということ。理屈としては、画像を安定させて、1度リセットして再現像する、それが修復の基本なんです

 まず、修復するプリントを硬膜液に浸す。これは写真の表面のゼラチンを固めるためだ。約10分前後で取り出し、水に浸す。この水は、村林家の地下から湧き出る井戸水を濾過(ろか)したものである。

 次に、漂白液に写真を入れる。すると、画像が次第に薄くなっていく。ここで再び水に浸し、洗浄液に入れると写真の画像がだんだん消えて真っ白に。画像が戻らないのではないか、と不安になった筆者が村林さんの顔を覗(のぞ)くと、

「大丈夫。画像は残っていますから。白い印画紙に白の画像だから見えないだけなんですよ」と笑顔をみせた。

 その後、硬膜液に浸し、さらに水で洗う。村林さんの手際のよさ、使った器具を片づけながら作業を進める几帳面さに感心する。

「これは親父にしつけられたわが家の伝統です(笑)。道具は必ず元あった場所に戻すとか、親父は厳しかったから」

 なるほど、古い暗室ではあるが、実に清潔なわけである。

「いちばん難しいのは、液から写真を上げるタイミングですね。僕は敏感な左手の人さし指で印画紙を触って判断します。いろんな加減は写真が教えてくれる。“もうちょっとだよ”とかね」

 感覚を頼りに判断していく作業ゆえ、マニュアル化は難しいという。

 次に村林さんは、バットに写真を置いて500Wの光を当てた。すると、消えたはずの画像が少しずつ現れてきた。

「ここで写真を休ませます。真っ暗な中に写真を置いておくんです。そうすると、写真の調子がよくなるんですよ」

 現像液に数分間浸し、最後に停止液に浸せば終了。

 黄変していた写真は、見えなかった背景も含め、細部に至るまではっきりと蘇った。

今回、修復したのは父の若いころの写真 撮影/森田晃博
今回、修復したのは父の若いころの写真 撮影/森田晃博
【写真】村林さんが修復した写真のビフォーアフターなど(全12枚)

「僕の修復法は経年変化での傷みを解消すると同時に、プリントを長持ちさせる技術でもある。だから、修復したプリントは、今後200年、色褪(あ)せることがありません」