手作りのお菓子屋さんが原点
みどりさんは、子どもが安心して食べられる美味しいお菓子を販売しようと思い立つ。
それは福岡でお菓子教室を開いていた母・美保子さんの存在もあったからだった。
「母は、お菓子を作らせたら天才。抜群に美味しい。東京でいろんなケーキを食べれば食べるほど、母親の作ったものがどれだけ美味しかったか、に気づきました。これは母に頼むしかないと」
さっそく母に電話をかけた。
「お母さん、わたしお菓子屋をやろうと思うんだよね」
「わかった、協力するよ」
母は、娘の突然の頼みに、詳しいことを尋ねることなく、二つ返事で引き受けた。
手始めに、アメリカからいろんな商品を取り寄せてみる中で、みどりさんが注目したのは、ウーピーパイ。 「アメリカの人気ドラマ『セックス・アンド・ザ・シティ』で主人公の女性たちが食べていたお菓子。“ウーピー”とは子どもが“やったー!”という声のこと。お母さんがキッチンにある余り物で作ったお菓子で、まずそのストーリーが素敵だなと。これはブームになる可能性を秘めてるなぁと思いました」
2011年9月、『ブラウンシュガーファースト』を創業。娘がまだ4か月のときだった。
レシピは母に頼み、実際のお菓子作りは当初、パティシエに頼もうと考えていたが、試作の段階で工賃が高くて折り合わず断念。そこで、母が古くから親交のあった福岡県小郡市にある『社会福祉法人こぐま福祉会』に頼んでみることにした。発達に課題のある子の療育施設である。
理事長の大熊猛さんが言う。
「みどりさんの“お母さん目線のお菓子作り”に共感できたし、障害のある子たちの将来のためにもなると喜んで引き受けました。彼女がわれわれを先導してくれたんです」
みどりさんは子どもたちに無理のないよう、現場での仕事の差配は福祉会に任せた。
創業資金は20万円。ウェブショップをオープンさせ、毎週末、東京・青山のファーマーズマーケットに出店した。寒空の下、娘をおんぶしながらお菓子を並べ、ひとつひとつ手売りで販売したのだ。
「子どもに手がかからなくなるまで待つとか、お金を貯めてからにするという発想はありませんでした。0歳の娘はまだオムツだし、お腹がすいたと泣き出したらおっぱいをあげればいい。むしろ、歩き出したり、トイレトレーニングを始めてからのほうが手がかかる。だから、とにかく走り出したんです」