おばあちゃんになった自分
現在、みどりさんの会社のスタッフはアルバイトを入れて約15名、少数精鋭である。
「営業はじめ、いろんな人を業務委託に切り替えたんです。有能な人にこそさまざまな会社の仕事を受けて働いてもらう、ということをすすめています。私から同業他社を紹介したりして。優秀な人材こそみんなでシェアしようよと」
4年前からアルバイトとして働く、自身も中学3年生のママ、小山千草さんが言う。
「子どもが病気で急な遅刻や欠席になっても“大丈夫?”と声をかけてくれる優しい社長です。みんなの誕生日をお祝いしてくれたり、スタッフをとても大切にしてくれる。持ち前のセンスのよさで商品を生み出す姿は、身近で働く私にとっても憧れなんですよ」
ブラウンシュガーファーストでは、ココナッツオイルを台湾のスーパーで展開したり、日本酒を中国に輸出したりと海外にも活躍の場を広げている。一方で、フードロスにも目を向け、『#食べ物を棄てない日本計画』プロジェクトにも取り組む。
短大時代の同級生で長年の友人、南祥子さんが明かす。
「彼女は、20歳のころからヨガやヘルシーな食べ物など健康にまつわることに詳しかった。ただ、常にいろんなことをアップデートしているので、前に話したことをほとんど忘れてる。“そうやったっけ? よかよか”という感じ(笑)」
若いころ、みどりさんの反発にうろたえていた母親の美保子さんは、娘に勉強させてもらったとしみじみこぼす。
「私たちの考えは固かったんですよね。“……せねばならない”というのが強かった。以前は心配ばかりだったけど、社会の枠を飛び越えてゆくみどりを通して、いろんな考え方があるんだ、と教えてもらいました」
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“将来の自分がどうなっていたいか”みどりさんは、そのイメージを持つことを大切にしている。専業主婦のころ、突然あるイメージが浮かんだのだという。それは自分が70歳になったときの姿だった。
黒のタイトなノースリーブのワンピースを着て、白い髪の毛はオールバック。周りには8人くらいの人がいて、みんな子会社の社長で、それぞれから事業の進捗(しんちょく)などの報告を受けている─。
「根拠はないけど、きっと私はこうなるんだなと直感で思いました。創業後、いろいろなことを乗り越えられたのは、あの日のおばあちゃんのイメージに導かれたからだと思っています。今は孫の世代、曽孫(ひまご)の世代を想像しながら、世の中のいろんな選択肢を見極めるようにしています」
成功を収めた現在も、彼女にとっては「通過点」にすぎない。かつてのこじらせママの見つめる先は、もっともっと未来なのである。
(取材・文/小泉カツミ)
こいずみかつみ◎ノンフィクションライター。医療、芸能、心理学、林業、スマートコミュニティーなど幅広い分野を手がける。文化人、著名人のインタビューも多数。著書に『産めない母と産みの母~代理母出産という選択』など。近著に『崑ちゃん』(文藝春秋)がある。