リフォームした台所を使わない
─お互いに、ご自宅を行き来したりすることはあるのですか?
冨士 うちは近いの。歩いて15分、走って10分。
吉行 走らないわよ。転んだら危ないから。おうちを新しくしたときだけ呼んでもらったわよね。1回だけ。
冨士 この人は1度も家に入れてくれないの。男のためかしれないけれど、きれいにしているらしいわ。気に入った布地を天井にまで張ったりして、お兄さんの淳之介さんが入ったときに驚いたとおっしゃっていた。台所をきれいにリフォームしたけど、汚れるから使わないのよね。それでおいしいたくわんをもらっても、匂うからそのまま1本丸かじりしたって。
吉行 おいしかったわ。
冨士 そういえば、有名な話があるわよ。あなたが俳優のKさんにだけは「何もしないからおいでよ」と家に誘って、断られたって。
吉行 Kさんはまじめだからね。
冨士 「何もしないから」って言ったのが余計だったんじゃない?(笑)彼が亡くなったときはがっかりして、私も3句ほど作ったわ。とてもいい人だったわよね。
吉行 あなたはお母さんが亡くなったときも、悲しみを俳句に託して、少し気持ちを抑えたりできる。私にはそれができなくて、母が亡くなっても俳句とは結びつかないの。俳句への関わり方がやっぱりずいぶん違うと感じる。
冨士 でも、あなたのお兄さんは亡くなる前、私にすごくいいお手紙をくださったのよ。「和子とせいぜい遊んでやってください」って書いてあったの。その手紙を「あげる」と言ったら、あなたは「いらない」って。
吉行 そんなことを考えていたのかとわかっただけで十分。でも、誰にでも心を開けるあなたの性格はすごいわよね。
冨士 これでも好き嫌いはあるのよ。
吉行 そうなの? 知らなかったわ。
冨士 みなさんもわかると思うけど、この人と付き合うのは大変なんです(笑)。
吉行 よくがんばって付き合ってくれていると思う。
冨士 人間としてのあるルール、一線を越えない関係を尊重しているから長く付き合っていけるのよね。
吉行 女の人って、すごく仲がよかったのに、突然、敵みたいな関係になることがあるじゃない? あれは付き合い方がまずかったのよね。お互いに入り込みすぎちゃダメ。