もしかして、多忙なせい? と聞くと「それは違う」と言う。

 今年の佐藤健は、いつにもまして作品に出演している。約3年ぶりのドラマでNHKの連続テレビ小説『半分、青い。』では、演じた“律”ロス現象を生み、好青年の律とは対照的なダメ男・麦田を演じ絶賛されたTBS系ドラマ『義母と娘のブルース』が高視聴率を獲得。映画も公開が続き『いぬやしき』、今作の『億男』に次いで来月には『ハード・コア』と20代最後の1年を全速力で走り続けている。

佐藤健 撮影/高梨俊浩
佐藤健 撮影/高梨俊浩
本誌未公開のアザーカットは必見です

20代が終わる焦りというか、悲しみがあります。失ったら一生、取り戻せないものじゃないですか。終わっちゃう残念感が9.5、30代のワクワクが0.5くらい(笑)。もちろん、いろいろ経験して充実した20代だったんですよ。あれと一緒です。乱暴に使っていた歯磨き粉が、なくなる直前になると惜しくなる(笑)。最初から、ちゃんと考えて使っていればよかったのに。まさに、いまが、それ。ありがたみを感じながら歯を磨いています(笑)」

 20代ではあまり積極的に演じたくはなかったという、子どものいるお父さんの役。映画では、今作が初めてとなる。

「自分が家族を持つって、まだ実感がなさすぎて考えられないですね。いつかは欲しいと思いますけど、具体的には全然。最近、子役ちゃんと共演する機会が多くて、一緒に遊んでいると楽しいんです。しょっちゅう子役ちゃんたちのブームが変わって、今日は紙飛行機を折りたい日、今日は抱っこしてほしい日、今日はひたすらクイズを出される日と、いろいろある(笑)。単純に、楽しそうにしている姿を見ているのがうれしいんですよね」

今作の空き時間、どう過ごした?

「クランクインした段階で台本ができあがっていなかったので、(同名)原作の『億男』を読み直したり、あのシーンにどういうセリフを入れたらいいかなと携帯にメモを取りながら考えたりしていました。監督と役者でディスカッションしながら撮影をしていったので。あとは、一男が大学時代に落語研究会に所属していて高座に上がるので、動画を見ながら落語の練習もしていました

『るろうに剣心』シリーズ以来の大友監督とのタッグですが?

「監督は、役者から出てくるものを撮ろうとする人。言ってしまうと、役者から何も出てこないと映画自体が崩壊していくくらい、われわれを信頼してくれる。だから、九十九役が(高橋)一生さんじゃなかったら、今作は全然違ったものになっているし、電車での一男と九十九のラストシーンまでたどり着けなかったと思う。圧倒的なクオリティーで九十九を演じてくれた一生さんが、信頼できる方で本当に助かりました」

疲れ切った一男と、対照的な学生時代の姿。その理由は?

「大学時代の一男と九十九は、どっちかというと九十九が人とコミュニケーションをとるのが苦手で、一男のほうが活発で元気で仲間に囲まれているんです。だから、一男が九十九の心配をしている。それが約10年後、再会したときにその関係性が逆転しているんです。10年後の一男を演じたとき、自然と以前の九十九のように、どもっていました」

<作品情報>
『億男』
10月19日(金)全国東宝系にてロードショー