彼が講師として招かれた『ひきこもりを考える勉強会』に参加してみた。裕喜さんは大きな声で会場の空気を作っていく。いつも謙虚で穏やかな彼が、リーダーシップを発揮していて新鮮に映った。
彼は明るくて共感能力も高いから「ひきこもっていたとは思えない」と言われるそうだ。だが、心の繊細さは変わっていないと思う。ただ、自分の気持ちを率直に表現するようにはなっている。
あるとき、たまたま私の知人たちと一緒に食事をした。裕喜さんは初対面の彼らに、ひきこもっていたことを話し、「今も社会不適合者かもしれない」と言った。知人たちは、自分がいかに時間を守れない人間か、適当なことを言ってその場逃れをするかを競って話しだした。私も、聞いていて彼らより裕喜さんのほうがずっと真っ当だわ、と感じて笑った。「あなたは大丈夫。これだけしっかりしているんだから」とお墨つきをもらった裕喜さんは、「少し自信がもてました」と謙虚に言った。
何かを話せば、誰かが背中を押してくれる。孤独から抜け出せば、世界は変わるのだ。それを実感しながら、目の前に現れる壁をひとつひとつ乗り越えているのが、今の彼の状況ではないだろうか。
会えば誰もが彼のファンになる。人を惹きつける魅力が、今後、彼の強みになるはずだ。
【文/亀山早苗(ノンフィクションライター)】
かめやまさなえ◎1960年、東京生まれ。明治大学文学部卒業後、フリーライターとして活動。女の生き方をテーマに、恋愛、結婚、性の問題、また、女性や子どもの貧困、熊本地震など、幅広くノンフィクションを執筆。