少子化や人手不足の影響も加わり、主力隊員となる「自衛官候補生」は、4年連続の定員割れ。井筒さんは、これに安保法や改憲への動きが拍車をかけたとみている。
「警察との合同で新卒向け説明会がよく開かれていたりしますが、自衛隊単独では人集めが難しいのだと思う。現役隊員からも、定年までいられるのに、辞めたいと相談を受けたりしますから」
改憲の前に自衛隊のあり方を考えるべき
自営隊員が入隊の際に行う「服務の宣誓」には、憲法を守り、国民の負託にこたえるという一文がある。
「南スーダンにPKO派遣された自衛隊部隊の日報隠しが問題になりましたが、戦闘という記載があったにもかかわらず、政府は衝突と言い換えて批判を集めました。あれは稲田防衛相(当時)も認めたように、海外での武力行使を原則的に禁じる憲法9条に抵触するおそれがあるから。
憲法を変えようとする前に、国民が望む自衛隊のありかたとは、いったいどういうものなのか、ひとりひとりが考えるべきです」
改憲が必要な理由として、首相は「安全保障環境が急速に厳しさを増している」と、あらためて強調する。'15年の安保法をめぐる議論でも繰り返された理由だ。こうした考えは一般にも共有されている。中国や北朝鮮を脅威とみなす声は珍しくない。
では、憲法改正すれば、脅威やリスクを払拭できるのか。
「日本には稼働停止しているものも含めて、54基の原発が狭い土地にひしめいています。テロ対策もほとんど行われていない。コストをかけずに攻撃できる格好の的です。これほどリスクの大きい標的を放置しておきながら、改憲による脅威の払拭を訴えたところで、説得力がありません」
東日本大震災や水害などの救助活動により、自衛隊に好感を抱く人は少なくない。
「災害派遣のように、国民が後押ししてくれる大儀があるのは大きい。日本の平和に役立つのかわからないなかで、政治の利害関係のために体よく使うのはやめてほしい。それが、隊員のいつわらざる思いです」
《PROFILE》
井筒高雄さん ◎1969年生まれ。元・自衛隊レンジャー隊員。元自衛官らで作る平和団体『ベテランズ・フォー・ピース・ジャパン』共同代表。共著に『日本と日本人を危うくする安保法制の落とし穴』(ビジネス社)