泣く人、怒りに震える人、闘う人
劇中でも、この法律に傷つき、憤り、悔し涙を流す人や抵抗する人が描かれる。
幼いころから容姿をからかわれ続けた女性(富山えり子)は、恋愛も結婚もしないと固く心に誓い、勉強と仕事に邁進してきた。
国立大学に進学し、誰もがうらやむ大手企業に就職し、がむしゃらに勉強して資格試験も突破。最年少で主任に昇格し、マンション購入の審査も通った矢先に、この法律の施行である。
子宮頸がんで子宮全摘手術を受けた女性(平岩紙)は、産めなくなった自分を責め、立ち直るまでに時間がかかったと話す。気持ちの整理がついて、自分の意志で結婚しないと決めたときに、この法律である。
政府は病気のことまでは調べずに、無作為かつ無神経に「結婚(出産)マーケット」へとひきずりこむ。
また、主役の野村周平の友人(松本享恭)はカミングアウトしていないゲイだ。とにかく相手の女性に断られるよう仕向けて、断られ続けることでやりすごすしかない。
フリージャーナリストの女性(大西礼芳)はそもそも結婚に興味がなく、法案に反対派。ひとつだけ記入できる条件には「代々犯罪者の家系を希望」と書いて抵抗する。
ところが、「そもそも出会いがないから、案外いいじゃない?」と乗っかる人もいる。政府主導なもんだから、「抽選見合い法」向けの経済も動き始める。
抽選見合い法応援セールと称してスーツを売る店、抽選見合い法公式などと掲げる飲食店も出てくる。選択の自由を奪われている事実から目を背け、目先のことにとらわれて踊らされる人々を描いている。そこが実にリアリティがあるなあと思う。
劇中でも、テロ支援部隊に送り込まれるのは女性が多いという設定がある。また、断り続けてリーチがかかった女性を脅迫したり、ストーカー化する男性も出てくる。
逆もしかりで、自分よりブスな女性に身代わりお見合いをさせて、断らせるツワモノ策士な女性も出てくる。さもありなん!
で、野村周平は、この法律に傷つけられた被害者たちの声をすくいあげるブログを立ち上げる。傍若無人でリーチがかかったお嬢様(高梨臨)と見合いをして、順調に関係を築いていく一方で、傷ついた人々を助けたいという気持ちをどう昇華させるか。
物語の行方というよりも、設定そのものにオンナアラートだ。憤り? 疎外感? 恐怖? それとも「わー楽しそう」と思うかどうか。ぜひ観てほしい。
吉田潮(よしだ・うしお)◎コラムニスト 1972年生まれ、千葉県船橋市出身。法政大学法学部政治学科卒業後、編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。医療、健康、下ネタ、テレビ、社会全般など幅広く執筆。テレビ『新・フジテレビ批評』(フジテレビ)のコメンテーターも務める。また、雑誌や新聞など連載を担当し、著書に『幸せな離婚』(生活文化出版)、『TV大人の視聴』(講談社)ほか多数。新刊『産まないことは「逃げ」ですか?』に登場する姉は、イラストレーターの地獄カレー。公式サイト『吉田潮.com』http://yoshida-ushio.com/