関取と付け人の関係
でも、事件発覚直後からテレビカメラに追われ、どうするどうする? と迫られ、彼の心は耐えられなかった。とても残念でならない。今の日本社会はやり直しがとても難しい。だからこそ、貴ノ岩にはそのロール・モデルになってほしかった。
もちろん相撲界も、付け人への対応について、さらにしっかりとした教育をすべきだ。付け人は元々「関取や親方の世話をしながら相撲社会のしきたりや礼儀、相撲そのものを学ぶ。同時に関取には付け人にそれらを教え、力士として強く育てる義務と責任がある」(相撲大事典/現代書館)という、相撲界のしきたりだ。
西岩親方の著書『たたき上げ 若の里自伝』(大空出版)には、自分の付け人を務めた、輝(かがやき)との思い出がこう記されている。
「ただ付け人を務めてもらうだけではなく、この世界のこともきちんと教えなければいけないと思っていました。巡業に行ったときも行く先々でいろいろなことを勉強してもらいたいと思い、各地の名所に連れて行ったり、そこの名産品や美味しいものを食べたり、全国にいる私の知り合いの方々にも紹介したりしました。
(中略)力士としてではなく、一人の大人として色々なことを知ってもらいたい、経験してもらいたい、そんな思いもあって時間が許す限り、彼を方々に連れまわしました」
付け人と関取とは労使関係にあるのではない。
とはいえ、今はマニュアル社会でもある。一定のマニュアルを作って、お互いにこうしなさいと言葉で説明する部分も必要だろう。
でも、それは相撲のしきたりに詳しくないワイドショーのコメンテーターがああしろこうしろと言う問題だろうか? 一般論として、こうしたらどうでしょうか? ならいいが、そこから逸脱し、そんな制度はなくしてしまえといった暴言が目立ったのは、番組の中でどんどん言葉がエスカレートしていく怖さを逆に感じた。
貴ノ岩の相撲人生が終わった。伝える側はその重さを今一度、きちんと感じてほしい。
和田靜香(わだ・しずか)◎音楽/スー女コラムニスト。作詞家の湯川れい子のアシスタントを経てフリーの音楽ライターに。趣味の大相撲観戦やアルバイト迷走人生などに関するエッセイも多い。主な著書に『ワガママな病人vsつかえない医者』(文春文庫)、『おでんの汁にウツを沈めて〜44歳恐る恐るコンビニ店員デビュー』(幻冬舎文庫)、『東京ロック・バー物語』『スー女のみかた』(シンコーミュージック・エンタテインメント)がある。ちなみに四股名は「和田翔龍(わだしょうりゅう)」。尊敬する“相撲の親方”である、元関脇・若翔洋さんから一文字もらった。