歌手である前に俳優でなければ
テノール歌手の父、ピアノ講師の母のもとに生まれた田代さんは、物心がつく前から音楽(なかでもクラシック)の虜だった。
「ほかの家庭でいつもテレビがついている感覚と同じように、ずっと生のクラシック音楽が鳴っていました。だから音楽に目覚めたきっかけはないんですが、舞台に目覚めたのは13歳のとき。
オペラ『マクベス』に子役で出させていただいて、大人の人たちが本気で役作りに取り組んでいる姿を見て感動したんですね。それまでは器楽ばかりやっていたんですけど“舞台に立ちたい”と思いました。それには声楽が必要だと言われて、本格的に学び始めたんです」
10年前『マルグリット』でミュージカル・デビューを果たすが、“ミュージカル俳優”と呼ばれることには違和感があったという。
「インタビューなどで記事に“俳優・田代万里生”と書かれたら、NGを出していました。“え? 俳優?”みたいな(笑)。
それくらい、違う世界だと思っていたから、肩書は“歌手”か“俳優・歌手”と両方書いてもらっていました。“僕なんかが俳優って名乗っちゃダメでしょ”ってずっと思っていたんです。
その後、超一流の俳優さんたちとご一緒したり、ストレートプレーをさせていただく中で“俳優にならなきゃ”と思うようになったのは、5年くらいたってからです。歌のうまさだけではない説得力とかリアルな感情を共演した先輩たちから感じて、それはやっぱり“お芝居だな”と。“舞台に立つからには歌手である以前に俳優でなければ”と実感して、“俳優”って書かれても受け入れるようになりました」
その後、こまつ座『きらめく星座』の正一や、ミュージカル『エリザベート』のフランツ・ヨーゼフ、『マリー・アントワネット』のフェルセン伯爵など、ますます充実した演技力・歌唱力を発揮してきた田代さん。『ラブ・ネバー・ダイ』を「ミュージカル10周年の集大成にしたい」と意気込む彼にとって、いまの夢とは?
「僕はいま、10年前にミュージカル・デビューしたときには思いもよらない場所にいるんです。それってめちゃめちゃ面白いじゃないですか。だから、常に未来の自分が楽しみな自分であり続けたい。それがいちばんの夢ですね。ゴールとかではなく“何が待っているんだろう”とワクワクし続ける状況が、この先もずーっと続いたらいいな」
<作品情報>
『ラブ・ネバー・ダイ』
『オペラ座の怪人』の10年後を描く続編。日本では2014年に開幕。今回はそれ以来の再演となる。10年前、ジリー親子の手引きでニューヨークのコニーアイランドへ渡ったファントムは興行主として成功、コンサートの出演依頼をしてクリスティーヌを呼び寄せる。ギャンブルに溺れた夫のラウル、息子のグスタフとともに渡米したクリスティーヌと再会した彼は、衝撃的な事実を知ることに。1月15日~2月26日 日生劇場で上演。公式サイトは(http://www.lnd2019.com)
<取材・文/若林ゆり>