「専念する時間をください」

◆18:05 入場。

 9人掛けの丸テーブルが76卓ほど。テーブルでドリンクを飲みながら待つ。今回、同時申し込みは2名までだったので、私を含め1人参加の人も多い。

 にぎやかに談笑するというより、悲しみがはじけてしまわぬよう、お互い用心しながら少しおしゃべりする、という雰囲気だった。

◆18:45 食事開始。

 料理が運ばれるたび、滝沢さんの動画がスクリーンに流された。彼は私たちと同じ料理に向かい、「みんなは好きなものから食べる? あっ、エビがある! (エビを食べると見せかけて)じゃあね~トマト!」などとおどけて見せる。

 滝沢さんとバーチャルデートを楽しめるような趣向だ。

 食事が進むたび、「ああ、もうデザートだ。もうすぐ終わっちゃう……」と思いながら、もくもく食べた。

 食事をしながらも、料理写真をパシパシ撮る。気を抜くと、まるでモグラ叩きのように切なさが顔を出してしまう。シャッターを切り続ければ、これを引っ込められるような気がしたのだ。

実際に出てきた可愛らしいデザート/筆者撮影
実際に出てきた可愛らしいデザート/筆者撮影

◆18:58 再びビジョンに動画が流れた。

「テーブルごとに、滝沢さんに聞きたいことと、それを発表する代表者を決めてほしい」

 とのこと。みんなで話し合い、代表者はジャンケンで決めた。ただし、発表できるのはクジ引きで選ばれた数テーブルのみ。

◆20:00 ショーが開演。

 フロア中央のお立ち台にフードを被った男性が現れ、「滝沢さん?」と思いきや……。

 本人はメインステージから登場。

「みんなは拍手は上手だけど、もっとキャー! とかほしい」という彼の要望に応え、「タッキー!」と、ちょっと頑張った歓声が飛ぶ。

 ここからは、もう一瞬たりとも目を離したくない。瞳が干からびても構わないと、ひたすら滝沢さんを見つめ続けた。

 滝沢さんのソロ曲である『記憶のカケラ』『894…ハクシ…』『キ・セ・キ』。

「おしゃべりも大事だけど、今日は1曲でも多く歌いたい」

 という、滝沢さんの熱唱を鼓膜に焼き付ける。できれば耳にフタをして、持ち帰りたいとさえ思った。

 宴が進み、くだんの質問コーナー。

 最初に飛び出したのは、「このディナーショーは映像化されますか?」というもの。

「ちょっと難しいかな。もっと早く言ってくれれば。みんなは、(ここに来られた)選ばれし者でしょ?」

 と苦笑する滝沢さんに、なおも私たちは食い下がった。

「来られなかった人もいる!!」

 そう、そうなのだ。私たちの中には、いつだって“来ることができなかったもう一人の自分”がいる。泣いてうずくまる彼女たちの姿が見えるから、なんとかして“みやげ”を持ち帰りたかった。少し滝沢さんを困らせてしまったけれど……。

 それでも滝沢さんは、

「(演者としては退くけれど)自分はずっとエンターテイナーであるし、“滝沢秀明のファン”をやめてもらう必要はないと思う。“滝組”のみんなは、生涯“滝担”(滝沢さんファン)です」

 というメッセージをくれた。また、

「(何かしらみんなとつながれる手段は考えたいけれど)まずは、新しく選んだ道に専念する時間をください」

 とも。

 さらに、本公演を見学に来ていたジャニーズJr.の人気ユニット“Snow Man”“Travis Japan”、そして林翔太さん(ジャニーズJr.)を紹介し、改めて後輩の育成に注力したいと語った。

 Snow Manは、来春、京都南座で開幕する滝沢さんプロデュース作品『滝沢歌舞伎ZERO』に出演が決まっている。

 ショーの後半、滝沢さんはすべての卓をまわり、参加者とハイタッチを交わしていった。

 左右から差し出される手に応えきれず、「がっつかない!」「(追いつかないので)もう、適当に触って?」と笑いながら通路を歩く彼は、御身に触れさせることで民を救う、尊い仏のようだった。