■4日目=12月21日(金)
午後8時、街頭の灯りに榎はボウッと照らされていた。参拝客はぐんと減り、寒さが一段と堪える。蕎麦店、美容室が店を閉めた。絵馬を買うことはもうできない。
21:42
40代とみられる女性。
「あまり教えたくないんです。すいません」
21:45
50代とみられる男性。
「ダメでしょう、そりゃあ。はははっ」
21:49
30代と思われる女性。
「いえ、話せません」
22:03
板橋区の物流関係勤務・酒見達樹さん(仮名、42)は、
「母が1年前に大腸の末期がんになったんです」
と切り出した。
「父と初めて2人っきりの生活をして、次第に父の理不尽さがわかるようになってきたんですね。母に聞くと、母はかなり暴力を受けていたという。隠していたんです。父と話し合いましたが、最後は殴り合いの喧嘩ですよ。もう、許せなくてね。そういう父と縁を切るために来たんです」
22:55
50代らしき男性と、40代らしき女性のカップル。
「よしてくださいよ! そんなこと」
と男性は取材を手で制し、鋭い目つきに変わった。
午前0時を回ると、寒さが一段と増した。ラーメン店や居酒屋も閉まり、野良猫が寄ってきた。丑三つ時をすぎても参拝客はひとりも現れなかった。空が白々とあけはじめた。平成最後の年末に、榎はあといくつの願いを聞くのだろうか。