命の平等性
ツアーの流れをうかがった。
「猟師目線で山に入って、動物の痕跡を探したり、くくり罠という罠を疑似的に設置してもらう体験をしてもらいます。おもちゃではありますが、銃の体験もします。BB弾(プラスチック弾)で、スコープだけ本物を搭載して、実際に空き缶などを撃ちます。
銃口は絶対に人に向けないとか、トリガー(引き金)に指をかけるのは打つ直前などと指導をしたうえで、銃を構えてもらうという。
そして最後は、ジビエ料理を食べるという流れです。
肉はその場で解体したものではなく、事前に衛生的な解体処理場で捌いた肉を用意します。シカはしゃぶしゃぶにしたり、キジはローストにするとおいしい。イノシシは猪鍋が知られていますが、猪汁のほか、食べやすいように合挽きにしたフランクフルトを試食することもできます。
解体体験に関しては、“自分でやってみたい人はいますか?”とツアー参加者に声をかけ、募ります。自分でやりたいという人もいれば、私は見ているだけでいいという人もいます。無理にやらせることはありません。内臓は事前にこちらで処理した状態での解体になります」
参加者は、これまで目にしなかった食の流れを追うことで、命をもらって自分も生かされているということを改めて感じる。そんな仕組みが、狩猟ツアーには込められているのだ。しかし、
「むやみやたらに殺すというのは、誰もやりたくないことなんですよね」
と前出・興膳さんは吐露し、「正直、イノシシやシカをさばくのと魚をさばくのは、一緒の感覚なんですよね」
と命の平等性を訴える。
我が家の食卓やレストランに届く食材から、元の形を想像できない人がいるという。数年前、スーパーの切り身しか見たことのなくて元の魚を知らない子どもが増えている、と報じられたこともあった。
今年は亥(イノシシ)年。十二支の半数、牛、兎、馬、羊、鶏、亥は、私たちの食卓に並ぶものだ。猪ハンターの思いと一緒に、食への感謝を年の初めにかみ締めてみたい。