小説とは何か
「小説とは何か」という、作家にとって究極ともいえるテーマに真正面から向き合った本作。森見さんにとって、小説を書くモチベーションとは?
「書くことで、自分が見たことのない世界を見たい。この好奇心ですね。冒険家が旅をするように、小説を書いて自分の内側を探っていくことで新しいものを見つけたい。
今回の作品も、当初の予想をはるかに超えたものとなりました。ただ、これだけ死闘を繰り広げて完成させても、自分にとって“小説は何か”ということは結局のところわからない。思い詰めれば詰めるほど取りこぼしてしまうものもある。
いちばん好きな子には直球で思いを伝えるよりも、脇からそっと近づいたほうがうまくいったりするのと同じように“小説は何か”という難題は、横目で見ていたほうがいいのかも、と思っています」
現在は、『有頂天家族』のように、コミカルな要素も含む作品を執筆中とのこと。次はどんな森見ワールドが味わえるのだろう。いまから待ち遠しい! クセのあるキャラクターや独特のユーモラスな世界観が魅力でもある森見さんの小説だが、そんな作品を好む読者もまた、遊び心にあふれる人が多いという。
そのことを象徴するエピソードがある。作中に登場する佐山尚一の『熱帯』は架空の本だが、アマゾンで検索すると、商品ページが見つかる。連載当時、ちょっとしたいたずら心でつくったものだが、いつの間にか読者のレビューがついていたそう。
「“気づいたら本が消えてしまい、最後まで読めていない”など、物語の世界観を踏襲したレビューばかりで面白いなと。その後も読者からのレビューが増えているので、今後どうなるか楽しみですね(笑)」
ライターは見た! 著者の素顔
とても気さくにインタビューに答えてくれた森見さん。これまでの森見作品に出てくる場所をめぐる聖地巡礼の京都旅行に出ようと思っているライターが、冬のおすすめスポットを聞いてみた。
「祇園にあるロシアレストラン『キエフ』の、クリームソースの上にパン生地がのったグリヴィという料理を初めて食べたとき、おいしくて感動しました。ビジュアルといい味わいといい、おとぎの国の料理のようなんです。いつか作品に登場させるかもしれません(笑)」