松任谷由実は、NHKが実施した事前の投票でトップとなった「春よ、来い」を避け、ジブリ映画でも知られる荒井由実時代の2曲を選択。また、メディア露出時は必ず新曲をフィーチャーするサザンも、デビュー曲「勝手にシンドバッド」で締めくくった。
結果論かもしれないが、両者とも、キャリア初期の曲を選曲することで、その途方もなく長い音楽キャリアが強調され、ひいては両者の「レジェンド感」が高まったと見る。そしてそのレジェンド同士が、最後の最後で、まさかの共演を果たした!
強く感じたのは、「国民的求心力」のハブとなるのは、もはや演歌ではなく、桑田佳祐と松任谷由実らの音楽だろうということだ。
さらに細かく刻めば、両者のような1950年代生まれのレジェンドが、その天才性を遺憾なく発揮し、かつ、ボリューム的に視聴者層の中核をなす1960年代生まれの層(私含む)が多感な時期に聴いた、1970~1980年代の「ニューミュージック」ではないか、ということである。
「国民的求心力」を保持するためにどうすべきか
さて、これからの紅白が「国民的求心力」を保持するために、どういう方向に向かっていくべきだろうか。
まずは、リアリティーとファンタジーの融合である。具体的にはリアリティー(生中継、生歌、生舞台、ハプニング性)とファンタジー(過剰な演出、完璧に編集された録画、違う場所からの中継)の見事な連携を意味する。もはや紅白は、どちらかだけでは食い足りないのだ。
2018年紅白における松任谷由実の、「ひこうき雲」(録画)と「やさしさに包まれたなら」(生放送)の一連の流れは、まさに「リアリティーとファンタジーの融合」だった。
次に、音楽シーンのMVP出場(への果敢な交渉)だ。米津玄師が出なかったら、今回のような成功はなかった。実はここ数年、個人的にMVPと感じている音楽家が、確実に紅白出場をしていてうれしい(2015年:星野源、2016年:宇多田ヒカル、2017年:椎名林檎、2018年:米津玄師)。今後も「MVP出場記録」が伸びていくことを期待する。
そして最後に、具体的な話となるが、今回特別枠で出演した桑田佳祐の、今後のレギュラー化を望みたい。「国民的音楽番組」が発揮すべき「国民的求心力」のハブとして、桑田以上の存在はありえないと筆者は思うからだ。
サザンオールスターズの大トリ、そして、桑田佳祐と音楽レジェンド(吉田拓郎、沢田研二、矢沢永吉、浜田省吾、そして可能性は著しく低いと思うが山下達郎など)の共演を固定にしてくれたら、あと数年ほどの紅白は安泰ではないかと妄想するのだが――。
もう今から、今年の大みそかが楽しみで仕方がない。
(文中敬称略)
スージー鈴木(すーじー すずき)◎評論家 音楽評論家・野球評論家。歌謡曲からテレビドラマ、映画や野球など数多くのコンテンツをカバーする。著書に『イントロの法則80’s』(文藝春秋)、『サザンオールスターズ1978-1985』(新潮新書)、『1984年の歌謡曲』(イースト・プレス)、『1979年の歌謡曲』『【F】を3本の弦で弾くギター超カンタン奏法』(ともに彩流社)。連載は『週刊ベースボール』「水道橋博士のメルマ旬報」「Re:minder」、東京スポーツなど。