アンケートの内容について、心愛さんが父親から叱責されたかどうかはこれからの捜査で明らかになるが、転校先の学校で実施されたいじめアンケート('18年6月、11月)に、心愛さんが虐待について記入することはもうなかった。アンケートに記入する勇気が無駄になることを、心愛さんは味わったのか……。
何が不満だったのか
家族を暴力的に支配し、学校の面談ですごんでみせた勇一郎容疑者だが、職場では低姿勢で人当たりのいい別の表情を見せていた。昨年4月から在籍する沖縄コンベンションビューロー東京事務所の上司は、事件と容疑者が結びつかないと首をひねる。
「非常に温厚で穏やかでコミュニケーション能力もあり、慕われていました。どんな人にも正しい敬語を使って、自己主張もしないし、人と意見がぶつかることもなく、みんなから頼られていました。彼を悪く言う人はいません」
酒癖は普通、ニコニコと人の話を聞き、トラブルもなし。広島カープのファンで、家族の話もしょっちゅう。
「娘さんを“上のお姉ちゃん”と“下の子”と呼んでいました。上のお姉ちゃんの運動会だったとか授業参観だったとか、学校行事のことをよく話していました」(前出・上司)
しかし、心愛さんは下校後、毎日のように同級生の家で過ごしていた。カギを持たされていなかったから。容疑者夫婦は同級生の家に心愛さんを迎えに行くとき、これまた平身低頭だったという。
「お父さんが相手のお宅にお邪魔して“すみません”とか菓子折りを持ってやってきて、丁寧すぎて怖いほどにお礼を言うそうです。ただ服装は全身真っ黒。背が高くて、威圧的な感じがして“不気味だった”って言う人もいました」
と近隣の主婦。そんな外面のよい父親について心愛さんが、友達同士の会話で「お父さんが怖い」と本音をもらしていたこともあったという。
一時保護時には、こんなエピソードも。
「食事の片づけのとき、調理の人に“ごちそうさまです。おいしかったです”って必ずお礼を言っていたらしい。よっぽど厳しくしつけられていたんでしょう」(市内の女性)
同級生の1人は、心愛さんからもらった“手編みのマフラー”を宝物にしている。寒がりのこの同級生のために編んでくれたのだという。
そんなやさしい子に育った心愛さんの何が不満だったのか。凶暴さと穏やかさの二面性を使い分け、「しつけ」と称した暴力でわが子を死に追いやったモンスター。歪んだ父親像に憑かれている。